御曹司とおためし新婚生活
私がこんなに悩んでいるというのに、部長はお酒を飲んでいるのか。
……よし、ならば私も飲もう。
飲んで忘れてしまおう!
そうして私は帰宅すると、さっさと入浴を済ませた。
部屋着になると完全リラックスモードに突入し、エールを一本飲んだあと、先日購入したスパークリングワインを開ける。
テレビを見ながらひたすら飲み続け、頭が段々と難しいことを考えるのをやめていって。
そうして、ボトルが空になった頃。
「ぶちょー……」
私の中に残っているのは、忘れようとしたはずの東雲部長への恋心だけ。
切ない想いを胸にテーブルに突っ伏せば、疲れとアルコールマジックによって眠気が訪れる。
素直に従い瞼を閉じた直後、遠くで物音が聞こえた気がするけれど、それが何かを確かめる気力はもうなく。
ゆっくりと夢の中に落ちて行く最中、ふと、耳に届いた部長の声。
何を言っているのはかわからない。
なぜ、私の体が浮いて波に漂うように揺れているのかも。
だけど、温もりが離れて行こうとしたのだけは理解できて。
部長がまた、谷川さんのところに行ってしまうのが嫌で。
「一緒に、いて」
ひとこと、呟いたのを最後に。
あとはただ、久しぶりに肌に感じる人の体温に包まれながら、幸せな夢に酔いしれた──。