御曹司とおためし新婚生活


「鳳さんと話すのって、仕事以外では初めてですよねぇ?」

「んー、そうだっけ?」

「そうですよぉ。今日は鳳さんのこと、色々教えてくださいね。あ、すいませぇん! ミモザくださぁい」


ゆずちゃんは普段はビール派だ。

甘いのは好みじゃなく、シャンパンも日本酒も辛口。

だけど、狩人モードに入った時はこうして乙女な印象の甘いお酒をオーダーする。

それと同時に、鳳さんがたれ目がちな瞳を細めて私に微笑みかけた。


「君は、今年から広報部に移動してきた子だよね」

「は、はい」

「亜湖ちゃん、でしょ?」

「えっ」


あれ。私、鳳さんと話したことないよね。

まだ仕事で絡んだことないし、自己紹介だってしていないはずだ。

なのになぜ、という疑問が顔に出ていたのだろう。

鳳さんは「ああ、ごめんね」と小さく笑った。


「前に企画部にお邪魔した時に、君を見かけたことがあって。可愛いなぁって思って、企画部の人に教えてもらったんだ」


……ああ、これは噂に違わないみたいだ、というか。

ゆずちゃんの笑顔が怖い。

私に向けられた笑顔が、目が、「邪魔をするな」と語っている。

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