御曹司とおためし新婚生活


「そ、そうだったんですねー。あはは、そうです。私が向日亜湖です」


芸人の使い古されたネタのような挨拶で女子力を削ぐ作戦に出たけれど、鳳さんには効かなかったらしく。


「ははっ! どうも、私が鳳那智です」


ノって来た。

低くてくだらないこの波に。

ゆずちゃんの冷たい微笑みに心臓が竦む。

その隣でマイペースにビールを飲んでいる東雲部長も冷めた目で私たちを見ていて。

この空気をどうにかせねばと、私は東雲部長に話しかける作戦に移行する。

これなら、鳳さんとゆずちゃんが会話をするチャンスに繋がるはずだ。


「しっ、東雲部長、飲んでますか?」

「見てわからないのか。お前のその顔についている眉毛の下の物はなんだ」

「め……目です、ね~」


そうだ。そうだった。

東雲部長はこういう人だった。

人と群れないタイプで、飲み会の席でもひとり黙々とお酒飲んでいるだけ。

いや、正確には、女性社員たちに囲まれてるのに相手にせず、ひたすら飲み続けている、だ。

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