御曹司とおためし新婚生活
なのに、東雲部長は私の意見は無用だというように「うるさい」と口にして。
声ごと、呼吸ごと攫うよう、奪うように、唇を重ねた。
強引だけど、どこか優しい口づけに翻弄され、押しのけようと彼の逞しい胸板に添えた手は、白いワイシャツに皺を作っただけ。
数十秒か、それ以上か。
名残惜し気に唇が離れた頃にはすっかり私の息は上がってしまっていた。
東雲部長の熱を孕んだ吐息が唇に触れる。
「お前の仕事が終わったら送っていく。勝手に帰るなよ」
一言告げるように念を押され、コクコクと頷くと部長はようやく私の腕から手を離し、扉を開けて去って行った。
──あの夜。
もしかしたら私たちは幾度も唇を合わせていたのかもしれない。
でも、記憶にない私にとって、部長との初めてのキスで。
なんだかもう、色々と順序が違うのをおかしく感じながら、私は真っ赤になった頬を両手で覆って、力なくその場にしゃがみ込んだ。