御曹司とおためし新婚生活


車中に漂う気まずさに耐えながら、車窓を流れていく景気をひたすらに眺める。

あれから、なんとか記事をまとめることができて。

勇気を出して部長室で仕事をしていた東雲部長に声をかけた。


『地下駐車場の車寄せスペースにいてくれ』


淡々と告げ、帰り支度を始めた部長に頭を下げた私は、オフィスを出ると言われた通りに地下駐車場へ降りた。

やがてやってきた部長に促され、彼の愛車に乗り込んで。

そこから今まで、互いに何も話さないままでいる。

車内に流れるのは落ち着いた雰囲気の洋楽。

一日の疲れを癒すような歌声は素敵だけど、今この場に流れている雰囲気までは癒せないようだ。

ここはひとつ、勇気を絞り出して仕事の話題でも振ってみようかと息を吸い込んだと同時。


ぎゅるるるるるる。


同居初日の羞恥心、再来。

またしても私の腹の虫が鳴った。


ぎゅるるるううううう。


しかも二回も。


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