御曹司とおためし新婚生活
『俺は、あいつにお前をくれてやるつもりはない』
あのセリフも、お試しにひっかけてのもので、深い意味はないのかもしれない。
そう考えたら、ズンと気持ちが沈んで、危うくため息を落としそうになったのを寸前で止める。
いつまでもうじうじするのはあまり好きじゃない。
東雲部長の心に私がいなくとも、私は好きになってしまった。
部長にとっては一夜の過ちだけど、私とっては過ちではない。
部長にとってはおしおきのキスだけど、私にとっては意味のあるキス。
それでいい。
あとはきちんと反省だ。
「東雲部長」
「……なんだ?」
「ご心配おかけしました。これからは、より一層鳳さんには気を付けますね」
小さくガッツポーズをして見せると、東雲部長は呆れた顔で私を見て長い息を吐いた。
「え、何でそんながっかりするんですか」
そんなに頼りなさげに見えるのだろうかと僅かに唇を尖らせる。
すると、東雲部長はまたしても溜め息を零した。
「いい……とりあえずそうしてくれ。何かあればすぐに俺に言えよ」
「はい!」
がっかりさせた理由はよくわからないけれど、頷いた私に部長はほんの少しだけ笑みを見せてくれたから。
とりあえずは、ここからまた良好な関係を築ければいいなと、私は口をあけてバーニャカウダの野菜を手にとった。