御曹司とおためし新婚生活
「ははっ、抵抗されるのって燃えるよね」
楽しそうな声色で加虐的なことを言われ、心臓が鷲掴みされたような感覚に陥った刹那──。
「離れろ、アホウドリ」
「ぐぇっ」
会議室に入ってきた東雲部長が眉間に皺を寄せて鳳さんの聞いてるシャツの後ろ襟を掴んだ。
まるで母親に首根っこを咥えられた猫のように、鳳さんは東雲部長に引きずられるようにして私から離れていく。
そして、広い背中に私を隠すように立った部長は、冷たい目で鳳さんを睨みつけた。
そんな視線を物ともせず、鳳さんは首を擦りながら目を細め笑う。
「ほーんとお前は、昔から俺の欲しいもの持っていくよなぁ」
「お前が勝手に欲しがっているだけだろう」
「そういう返し、腹立つわ」
「そうか」
先月、休憩スペースで会った時のように、二人の間に火花が散る。
鳳さんの欲しいものを持っていくという東雲部長。
部長が持っているものを欲しがるという鳳さん。
卵が先か、鶏が先か。
よくわからないけれど、どうやら二人の関係は昔からこんな感じなのだろう。