きっと夢で終わらない
「一位とった時にお願い聞いてくれるって言ったよね」

「えっ?」

「あれ、もしかして無効にしようとしてる?」

「今日、こうして出かけたのがそれだったんじゃないんですか?」

「確かに言いはしたけど、聴こえてないふりして来なければよかったのに。来たのは杏那の方じゃない?」



弘海先輩と話しているとだんだんペースを持っていかれる。
どこか自信ありげな態度に、あなたは本当に実習生かと問いたい。
私も負けじと言い返す。


「アイスだって奢ってもらってないです」

「今日この後帰りに奢るから」

「きいちゃんの分は?」

「月曜日に差し上げます。で、有効?」


きいちゃんの千里眼がもたらした勝利だが、約束は、約束だ。
女に二言はない。
あくまで私が優位に立っていることを示すために、顎をしゃくってみせる。


「まあ、道徳の範囲内なら、聞いてあげなくもないですけど」

「偉そうな態度だな」

「私も貢献してることを忘れずに。それで、何ですかそのお願いとやらは?」

「一度だけ、名前呼んで欲しい」


もっと何か別のものを言われると思っていたのに、拍子抜け。

組んでいた手を後ろに回して、弘海先輩は首を傾けた。
弘海先輩は少し不安に思うことがあると、必ず首を傾ける癖があった。それもここ数日一緒に過ごして思い出した。
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