きっと夢で終わらない
「そんな簡単なものでいいんですか?」

「じゃあ『弘海先輩、お久しぶりですね!』って笑顔で言って」

「なんの羞恥プレイですか?」

「いいから。いいから」

「だってこれが初めましてじゃないのに」

「棒読みじゃなくて、本当に心の底からそう思って演技してよ」

「素人には難しい注文を」

「気持ちがこもってればそれでいいから。はい、後ろ向いて。僕が声かけるから、そしたら僕が言ったようにして」


何の演技指導だよ、と思いつつも後ろを向かされる。
準備ができたら言ってね、というので自分を作る時間をくれるようだ。

それにしたって何でこんな安演技。意味がわからないにもほどがあるし、だいたいもう2週間も経っているのに。
……よほど再会の仕方がショックだったのだろうか。

知り合いの自殺未遂現場に居合わせたというのは、きっと本人にとっては相当衝撃で、ショックな出来事だったのではないかと、今冷静になって見て思う。
あの時は他人のことなんて考える余裕は一切なかった。それくらいに、追い詰められていた。

だから、やり直しを図りたかった?
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