きっと夢で終わらない
「大根演技と一緒にされちゃ女優さんが可哀想ですよ」

「自然だったな、と思って。うん。満足。じゃあ、帰ろうか」


身を翻した弘海先輩からは、ほんの少しだけ焦りを感じた。
何がそうさせているか分からないけれど、多分ことの恥ずかしさに気づいて照れたのだと思う。慣れないことはするものじゃない。私だって変な気分。

手を頬に当てると熱かったから、きっと火照って赤くなっている気がする。


「アイス何がいいの?」


川の流れを背後に聴きながら、鳥居をくぐり石畳を降りていく。
清く静謐な空間から出ると、まるで世界から取り残されたような薄暗さと静けさに包まれる。来た時よりも、より鬱蒼としているから、太陽は地球から姿を消してしまったかもしれない。


「コンビニのソフトクリーム。きいちゃんには、あの高いカップのイチゴですよ」

「じゃあ、畠本さんのは明日買って、学校に行くよ」


パタン、パタンと二人の足音だけだった世界は、徐々に開けて。
車の走る音が聞こえる。
光が入ってくる。
太陽はまだ存在して、街並みを茜色に染めていた。
建物が夕陽を反射して、赤橙色の波が見える。


「きれい……」


ですね。
そう弘海先生に言いかけて、私は言葉をのんだ。
隣に立って街並みを見下ろす弘海先輩が、涙していたからだ。
その雫はゆっくりと目からこぼれ落ちて、頬を伝った。
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