きっと夢で終わらない
今。線を引かれた気がした。
君は知らなくてもいいことだよ、とそんな風に。
お互いに知らないほうがいいこととか、言いたくないことがあるのは普通だけれど、今の予防線ははっきり見えた。

やっぱり、いつかは弘海先輩も何も言わずに私の前から消えるだろうか。
そんな思いが過って、足が止まる。

私がついて来てないことに気づいた弘海先輩は数段下に行ったところで、上を振り返った。


「どうした?」

「弘海先輩」


先に行った分、弘海先輩はまた上がって来て私の前に立つ。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、これがふっと消えてしまう瞬間は、何度思って見ても悲しい。もう二度と味わいたくない。


「来週も、また会えますか?」


信じて、といったのは弘海先輩じゃない。
なら、最後まで信じさせてよ。
何も言わずに、どこにもいかないで、最後まで、向き合って。

今度は立場が逆になる。

弘海先輩はいくらか吹っ切れたように、はにかんだ。


「国語ゼミに来てくれたらね」


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