きっと夢で終わらない
「ハンカチ、ですか?」

「これ、葛西先生に渡してもらえない、かな」

「葛西先生に?」

「うん……」


流石に、本人に直接渡しに行くのは気後れする。
借りた、にしてもあくまで弘海先輩が押し付けてきただけだし。
どんな顔して会えばいいか、分からなかった。

会いたくなかった。


「一応、葛西先生、花純先生と同じゼミ室なんですけど……」


花純先生はきいちゃんのクラスの古典担当、そして私のクラス担任。
普段はC棟二階の正門側に位置する国語ゼミ室に待機している。普段高校三年生が滅多に通らない場所だから、会わなかったのも納得いく。
国語ゼミの前を通って体育館に続く外の通路があるけれど、私たちは運動場でハンドボールの授業なので、やっぱり会う確率は低い。


「たまたま駅で拾っただけだから」


苦し紛れの言い訳も、言い訳と気づかずにきいちゃんは「あ、なるほど」と手を叩いた。


「葛西先生っておっちょこちょいなんですね。いいですよ、承りました」


あっさり、何の詮索もすることなく引き受けてくれたきいちゃんにホッと胸をなでおろす。
けれどきいちゃんは、首を傾げた。
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