きっと夢で終わらない
「固定観念とも言いましょうか。平たく言えば、頑固?少し見方を変えればいいだけなんだけど、それができない。人間って意外と融通きかないから。受け入れてもいいはずの変化を、受け入れられない」

「……例えば?」


尋ねると、花純先生の瞳がキラリと光った。
一瞬、やってしまったと思ったけれど、花純先生は口の端をくいっとあげた。


「例えば、そうね。今のあなたたちなら『こうだ』って思うことかしら。『あなたはこうだ』『私はこうだ』って自分で決めてしまうこと」


私は突然何か呪いをかけられたように動けなくなる。
花純先生は持っていた弁当箱を机に置いた。


「今、学校というすごい狭いコミュニティがあなたたちの世界でしょ。そうすると校則という制約がある。これは生きて行く上での最低限必要なもの。守らないといけないよ、秩序ある世界のために。でも、他にも目には見えない鎖があるでしょ。中には自然に守らなければいけないこと、礼儀作法だけど必ずしもその方にはまらなければいけないわけじゃないものもある」


礼儀、秩序、常識。それ以外に守らなければいけない、目に見えない鎖。
それはきっと、人間の感情。
自分がどう思われて、相手にどう思うか。
それぞれの間にしかない、共有することのできない価値観。


「自分がこうでありたい、と思うのと、相手が自分に求めてるものの相違。こればっかりはしょうがない。順応するのは大切よ、誰かのわがままを押し通すだけでは何も生まれないものことを、歴史から見ても私たちは知っている。でもその中で、人間一人ひとり『自分を持つ』のは大変なものよ」


「……『自分はこうだ』っていうのと、『自分を持つ』の違いは、何ですか?」


かろうじて、唇だけが動く。

花純先生は「ポイントはそこよ」と人差し指を立てた。
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