きっと夢で終わらない
「いらないなんていわないで」

「いらないよ。いらない。こんな人間、友達になりたくなくて当然。信じられないと思って当然。だって、私は信じてあげられない。信じられない。どうしたってその先を恐れて、仲良くなんてできない。本心なんて曝け出せない人間だ。秘密の話を共有することだって、自分の好きなものも教えられない。人を信じることができずに、結局傷つけた。自分のエゴのために生きている人間なのに」

「杏那はそんな子じゃないよ」

「私はそんな子だよ」

「だって、あの時の赤の他人だった僕と水遊びしたのに」

「その話は今関係ない」

「関係あるよ。そうやって自分を決めつけないで。好きになれないなんて決めつけないで。過去のトラウマを引きずるな、なんて言わない。だって忘れられないことだ。いつも脳裏にあって、ふと思い出して、弱くなってしまうのは分かるよ。でもいつまでもそれに固執してしまうと、益々自分の気持ちが封印されて、それは……可哀想だ」

「……可哀想?」


弘海先輩は呟くように「うん、可哀想」と言った。
変わらない高さにあった栗色の虹彩が、光に透けて琥珀色に見えた。



「杏那が可哀想。必ず素敵な出会いがあるはずなのに、道を閉ざしている」

「そんな出会い、見つかりっこない」

「杏那が固執している間はね。でも今、それが少し解けたじゃない」


瞼からも頬からも涙を拭い去ると、弘海はそのハンカチを自分のポケットの中にしまった。


「今、僕に話してくれた。それが、そうじゃない?」
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