きっと夢で終わらない

「……先生」

「はい、なんでしょう」


改まって呼べば先生面する弘海先輩。
調子のいいところは、変わらない。


「今何時だろう」

「え?」


遠くの方から聞こえていた朝練の声が、聞こえなくなって、バタバタと生徒たちが急ぐ足音が聞こえていた。
いつも大体八時半あたりに登校しているから、多分時間は過ぎている。
弘海先輩がポケットの中からステンレス製の腕時計を出して時刻を確認するのを横から覗くと、それは八時四十分過ぎを指していた。
つまり、ホームルームまであと五分を意味する。
弘海先輩は弾かれたように、慌ててホースを戻し始めた。

その姿が可笑しくて笑顔になる。


「カッコつかないね、先生」

「今指摘されるまですっかり忘れてた。やばい。完全に怒られる」


ぐるぐる、適当に巻きつけているのかと思えば、ホースはきちんとあったように蛇口に巻かれていた。弘海先輩はホースから出た水で手を洗って、ポケットからハンカチを出そうとする。
でも私はその前に、自分のハンカチを目の前に差し出した。
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