ベストフレンド~本当の友達~
「まあ、立ち話も難だし、座ってよ」

浜岡さんに椅子を勧められたので座る。

「さ、お弁当にしよう」

浜岡さん達はお弁当を広げる。

「桑野さんはどうする? ここで食べてく?」

会田さんに聞かれる。

「えっと……」

ここでも私の悪い癖、断れないが出てしまう。

本当は、1人で食べたい。 

欲を言えば、誰にも見られないような個室で食べたい。

だけど、学校にはトイレ以外で1人になれる場所はない。

以前、トイレで食べていたら、上からゴミや水を掛けられたことがある。

私はそんなことを思い出しつつ、小さくうなずいた。

「桑野さんのお弁当、どんなのかな~?」

浜岡さんが私のお弁当に視線を向ける。

私の弁当箱は、緑色の単色で面白味に欠けるものだ。

とにかく目立つことを避けたかった。

ふたを開ける。

中身も目立つことを避け、シンプルなものだ。

ご飯に卵焼き、冷凍食品の鶏の唐揚げとブロッコリーにミニトマト。

面白味のなさが、私をよく表していると思う。

「桑野さんのお弁当、自分で作ってるの?」

浜岡さんが私の弁当箱を覗き込みながら、聞いてくる。

私はうなずいた。

「すごーい! 私はお母さんに作ってもらってるの」

別に、浜岡さんのお弁当については聞いてないし興味もない。

今興味があるのは、どうやって無難にこの場をやり過ごすか、ということだけだ。

「友里は料理、壊滅的だもんね」

会田さんがケタケタと笑いながら言う。

「ひどーい。美羽だってそんなに上手じゃないじゃん」

「それでも、友里よりはマシだって」

友達と軽口を叩き合うというのは、私にはなかった経験だ。

でも、羨ましいとは思わない。

「桑野先輩。唐揚げも手作りですか?」

不意に、小村さんが話しかけてくる。

「ち、違う……」

また、頼りない声が出た。

自分が嫌になる。

「朝から唐揚げ作ってる時間なんてないよ、普通。でも、卵焼き綺麗にできてるよ」

浜岡さんにフォローされる。

卵焼きくらい、誰にでもできると思う。

「それじゃ、食べよ」

浜岡さんの一言で、私以外の3人も弁当を広げ、食べ始める。

みんな、親に作ってもらっているのだろうか。

彩りやバランスに工夫が見られる。

弁当箱もピンクや赤で可愛らしい。

私は自分の弁当と比べ、なんだか嫌になってしまう。

弁当箱を選んだのも、弁当を作ったのも自分だ。

だから、結局は自分が嫌なのだ。

「友里、今日の放課後どうする? 打つの?」

会田さんが弁当をつつきながら、浜岡さんに聞く。

「そうだ! 桑野さんの歓迎会しようよ」

浜岡さんは宣言する。

勘弁してほしい。

早く家に帰って、一人になりたい。

でも、嫌とは言えない。

私はこれから、どうなってしまうのだろう。

「友里先輩、今日からたくさん打つって言ったじゃないですか」

「そんなのいつもでいいよ。せっかく桑野さんが入ってくれたんだし」

止めることもできず、今日の放課後はこのメンバーでファミレスに行くことになった。

昼食も食べ終わり、そろそろ昼休みが終わる。

「じゃあ、そろそろ教室に帰ろっか」

浜岡さんの一言で、私たちは立ち上がる。

教室へと向かう。

途中で会田さん、小村さんと別れた。

「桑野さんって、しゃべるの苦手?」

浜岡さんが私の目を覗き込むように見ながら言った。

正直、まっすぐ見られるのは苦手だ。

「ぅ……ん」

私は質問に対して、小さくうなずいた。

「そっか、それに初日だしね。いろいろ連れまわしてごめんね」

私のことなんて、放っておいてほしい。

いくら私でも、浜岡さんが敵であるとまでは思わない。

でも、こうしていきなり親しげに話しかけてくることに、何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまう。

いじめの経験のせいだ。

友達だと思っていた子に裏切られたことも多々ある。

人を根本的に信用できない。

だから、人と関わりたくない。

もう、これ以上傷つきたくない。

「もしかして、嫌だった?」

うなずきたい。

大声で「嫌だった!」と叫びたい。

だけど、そんなことできない。

それをしたら、きっと明日からいじめの標的になる。

また、繰り返してしまう。

だから、私は首を振った。

「そっか、ならいいけど」

浜岡さんは納得したのか、教室に入る。

私もそれに続く。

自分の席に着いた。

隣の席に野部君はいない。

もうすぐ昼休みも終わるというのに、どこへ行ったのだろうか。

すると、テニスラケットを持った野部君が教室に入ってくる。

うっすらと汗をかいている。

野部君はテニス部なんだ。

「あ、憲一君お帰り~」

浜岡さんは野部君に手を振った。

野部君も手を振り返す。

私がその様子を見ていると。

「ああ、僕と友里は幼馴染なんだ。家も近いんだよ」

野部君がラケットをしまいつつ、教えてくれた。

そうなんだ。

もしかして、付き合っているのだろうか。

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