ベストフレンド~本当の友達~
ファミレスに着いた。

店内に入る。

食事時ではないので、それほど混んでおらず並ばなくて済んだ。

席に着き、メニューや水、おしぼりが行き渡る。

「何食べるー?」

浜岡さんがみんなを見渡しながら聞く。

「夕飯もあるし、ドリンクバーだけで居座ればいいんじゃない?」

会田さんの提案で、ドリンクバーだけ頼むことにした。

正直、喉は乾いていないし、何か飲みたい気分ではない。

ジュースを取りに行って、席に戻る。

「それじゃあ、乾杯しよっか」

浜岡さんの一言で、乾杯することになった。

「乾杯!」

声が合わさる。

私も聞き取れないレベルの声で一応言った。

「話題カード、作ってきたの」

浜岡さんはカバンから、5枚のカードを取り出した。

「授業中に作ってたの?」

会田さんが聞く。

「うん」

「いや、授業は真面目に受けなさいよ」

そんな会田さんの助言を無視して、浜岡さんは私に向かってトランプのババ抜きのように、5枚のカードを裏にして差し出した。

「1枚引いて」

私はうなずき、なるべく時間をかけないように、すぐに1枚引いた。

カードを表に返して、書かれている文を見る。

カードには好きな異性のタイプと書いてあった。

「あー、それ引いちゃったかー」

浜岡さんが笑みを見せる。

「好きなタイプ? 誰から言うの?」

会田さんが聞く。

「じゃあ、佳織から」

「何で私なんですか! 友里先輩から言ってくださいよ!」

「いいから、言わないと帰さないよ」

「パワハラでセクハラですよ」

小村さんはそう言いつつも、怒ってはいないようだ。

「まったく、言えばいいんでしょ。言いますよ」

「もったいぶるってことは、すごいこと言ってくれるの?」

浜岡さんはニヤニヤと小村さんを見る。

「すごいことって何ですか。私のタイプは、清潔感があって、身長が175センチ以上で、そこそこお金があって、中堅大卒以上で……」

「列挙しすぎだよ。っていうか絶対行き遅れるタイプだね、こりゃ」

会田さんが呆れながら言った。

浜岡さんは笑いながら聞いている。

「じゃあ、次は美羽ね」

「私? 私はちゃんと自立してる人」

「ふーん」

「振っといてその反応?」

「私はカード引いてないよ」

「カード作ったのはあんたでしょ。次は友里だよ」

浜岡さんは立ち上がる。

「私はね、優しい人」

「なんだ、期待してたのに普通じゃん」

会田さんは少し残念そうだ。

「うん、普通だよ。次、桑野さん。トリだからね」

浜岡さんに期待のこもった眼差しで見られる。

トリなんて言われても、困る。

「ちょっと友里、プレッシャー掛けちゃだめだよ」

会田さんが注意した。

どうしよう。

私の好きなタイプなんて、よくわからない。

本の中の登場人物に憧れることはあっても、好きなタイプとは違うと思う。

それに、この場でプライベートなことをさらけ出すのは、怖いし恥ずかしい。

私の心の中を覗かれているような感じだ。

「わ、わからない」

だから、そんな答えになった。

「ご、ごめんね。私が変な期待しちゃったから。次の質問行こう」

浜岡さんはなぜか、謝っていた。

私が悪いのに。

その後の質問や会話でも、私は自分を表に出すことをせず、ひたすら黙っていたり、わからないで通した。

30分ほど経過した。

浜岡さんはジュースのミックスで遊んでおり、会田さんはトイレに行っている。

席には私と小村さんしかいない。

重い沈黙に包まれ、気まずい。

小村さんはストローで氷入りのジュースを、カラカラとかき混ぜている。

「桑野先輩って、暗いですね」

唐突に発せられた小村さんの言葉が、胸に刺さった。

「何で友里先輩があなたのことを気にかけてるか知らないですけど、正直私はあなたにこの部活入ってもらいたくないです。なんか暗くなるし、気を遣うし」

小村さんの言葉はざくざくと、心を切り刻む。

ああ、だめだった。

新しい場所でも、私は受け入られない。

そんなの、わかっていたことだ。

だって、変わろうとしていないんだもの。

こんなありのままの私を受け入れてくれる場所なんて、世界中どこにもない。

どこかで断るべきだったんだ。

ぽつぽつ。

何かがこぼれた。

涙だ。

久しぶりに、泣いた。

悔しくて、情けなくて、どうしようもなく心がかき乱される、久しぶりの感情。

「何泣いてるんですか? ごめんなさい、泣かすつもりはなかったんですけど」

小村さんは感情のこもっていない声で、謝罪した。

謝りたいのはこっちだ。

ごめんなさい、あなたたちの居場所に、勝手に入ってきて。

私はドリンクバーのお金だけ置いて、席を立つ。

そして、急いで店を出ようとした。

浜岡さんとすれ違う。

「桑野さん? どこ行くの? 待って!」

私はその声を無視して、店を出た。

走って店から離れる。

「桑野さーん!」

遠くから浜岡さんの呼ぶ声が聞こえた。

私は路地に隠れる。

そこで、座って泣いた。

涙が次から次へと、溢れてくる。

この世界のどこにも私の居場所はない。

どこに行っても邪魔者で、空気になることもできない。

どうして、私なんかが生まれてきちゃったんだろう。

誰か、私を消してよ。

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