ベストフレンド~本当の友達~
「桑野さん!」

浜岡さんは急に大きな声を出した。

「ひっ」

私は驚いて小さな悲鳴を出してしまう。

どんなひどいことを言われるんだろう。

身構える。

「ごめんなさい!」

浜岡さんはさらに大きな声で謝った。

「……え?」

まさか、謝られるとは思っていなかった。

意外な言葉に対して間抜けな声が出てしまった。

「佳織がひどいこと言ったんでしょ? 本当にごめんなさい。きつく叱っておいたから」

「い、いや、でも……」

小村さんは本当のことを言っただけだ。

そして、女子テニス部という自分の居場所を守ろうとしただけだ。

だから、悪いのは全部私。

私だけが傷つけばいい。

まあ、誘って無理矢理引き込んだのは浜岡さんだけど。

でも、浜岡さんを責める気にはなれない。

「ごめんなさい。こっちから誘ったのに……こんな思いさせて」

私はどうすればいいんだろう。

怒ればいいのだろうか。

でも、怒り方なんて忘れてしまった。

いつも、怒られる側だったから。

「何で、私に構うの……?」

ようやくそれだけ言えた。

最初の職員室の出会いから疑問だった。

どうして、私みたいな暗くてどうしようもない人間に、明るくクラスの中心人物である浜岡さんが構うのだろうか。

「何でって、友達になりたいからだよ」

「どうして?」

「だって、楽しそうじゃん」

浜岡さんは笑みを見せる。

わからない。

私なんかと友達になっても、楽しいことは一つもないと思う。

「桑野さん、私を信じてくれるなら、明日の朝もう一度部室に来てほしい」

浜岡さんはまっすぐこちらを見て言った。

一瞬だけ、目を合わせる。

澄んだ目だった。

私はこんな風に、綺麗な目で人をまっすぐ見られない。

人が怖いからだ。

「待ってるから」

浜岡さんは去って行った。

大人しくしていた太郎が、私を引っ張る。

私は何も考えずに、太郎を散歩させた。


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