ベストフレンド~本当の友達~
教室に、友里はいなかった。

トイレにもで行ったのだろうか。

「ねえ、知ってる?」

友里とよく休み時間話している、友里の友達グループの会話が聞こえてくる。

「友里、昨日1年の男子をみんなの前で脱がせようとしたんだって」

「えー! 嘘ー! どういう経緯で?」

「なんか、テニスで勝負して勝ったから、言うことを聞かせようとしたんだって」

噂というものは、尾ひれがついて不正確に伝わるものだ。

「それ、ひどくない? いくら勝ったからって」

「だよねー。あの子、意外と性格悪いんじゃないかな?」

「クラスでは、いい子ぶってるのにね」

確かに、友里にも落ち度はある。

だけど、こんな言い方しなくてもいいのに。

私は思わず、立ち上がって抗議しようとした。

だけど、勇気がない。

それに、どういう言葉で友里のことを守ればいいか、わからない。

友里は大切な友達なのに。

どうして、私は動けないんだ。

私は自分の不甲斐なさに、悔しくなる。

「何の話ー?」

友里が教室に戻ってきた。

その途端、友里の悪口は終わった。

友里に先ほどまでの会話は、届いてなかったようだ。

「次の授業の話だよ」

「友里、どこ行ってたの? 待ってたんだよ?」

「あはは、ごめんね」

何事もなかったかのように、友里は輪の中に受け入れられた。

こういう陰口はどこにでもある。

いちいち気にしていても、しょうがない。

それに、私はいじめられていた頃、もっとひどいことを言われた。

あれくらい、どうってことない。

それに、友里は聞いていないんだ。

だから、黙っていればいい。

それで、なかったことになる。

でも、無性に悔しくて悲しかった。

私はぎゅっと、スカートの裾を強く握った。

「桑野さん」

「え?」

野部君に小声で話しかけられる。

「大丈夫?」

「うん……」

私は弱々しく答えた。



放課後。

今日も部活だ。

4人で一緒に部室へ向かう。



部室に着き、着替えて昨日と同じように、打ち始める。

しかし、私は空振りばかりだった。

テニスを初めて2日だけど、落ち込んでしまう。

素振りから始めた方がいいのだろうか。

私のひどさを見かねたのか、友里が打つのをやめる。

「桜、特訓しよう!」

「特訓?」

友里は私に1対1で打ち方を教え始めた。

1時間も教わると、空振りは減ってきた。

自分でも上達を実感している。




その日の帰り道。

会田さんと小村さんと別れ、友里と2人になった。

「今日も沢山打ったね」

「うん」

私は思い切って、友里の過去を聞くことにした。

「ねえ、友里」

「ん、何?」

「友里の昔のこと、教えて」

友里が立ち止まる。

私もそれに合わせて立ち止まる。

「どうして知りたいの?」

友里の口から、感情のこもっていない声が出た。

「友里、何か悩んでない? 私友里のこともっと知りたいし、友里の力になりたい。友里は大切な、友達だから」

友里の瞳が揺らぐ。

「ありがとう……でも、今は話せないや」

「そう……」

残念だ。

私は友里にとって、まだ全幅の信頼をおける存在ではないのだ。

しょうがない、出会ってまだ1か月も経っていない。

「本当にありがとう。桜の言葉、忘れないよ」

「うん」

私の言葉で、少しでも友里の気持ちが軽くなれば、嬉しい。

私たちはそれぞれの家に帰った。



夕食後、太郎の散歩をしていると、野部君に出くわした。

いつも同じ散歩コースなので、この先も何度か散歩中に会うことになるかもしれない。

「こんばんは、桑野さん」

「こんばんは、野部君」

そのまま、一緒に歩きながら話す。

「友里に、昔のこと聞いてみたの」

「どうだった?」

「教えてくれなかったよ」

「うーん、そっか」

「でも、野部君の言う通りいつか話してくれると思う。その時まで、待つよ」

「うん……。ありがとう、桑野さん」

私にお礼を言うあたり、野部君は友里のことをかなり気にかけているのだろう。

「そういえば、野部君と友里は付き合ってるの?」

「え? ないない。昔は一緒に帰ったりしたから噂されたけど、僕たちはそういうのじゃないよ」

「そっか」

「どうしたの? 急に」

「幼馴染って、自然とそういう関係になるのかなって」

私としては、そういうのに憧れる。

恋愛経験0なのも、憧れる一因だ。

「いや、逆にいろいろ相手のこと知りすぎてて、付き合えないっていうか、まあ、漫画みたいに単純にはいかないんだよ」

「そうなんだ」

よくわからないけど、納得しておこう。

これ以上聞いたら、面倒くさがられるかもしれない。

「それにしても、桑野さんみたいな優しい人が友里の友達になってくれて、嬉しいよ」

まるで、友里の親みたいだ。

「友里は私以外にも、友達たくさんいるよ」

「クラスの?」

「いや……どうなんだろうね」

昼休みの陰口が思い起こされ、すぐに肯定はできなかった。

「友里は本当の友達が欲しいんだよ」

本当の友達。

私は欲しているものだ。

友里も同じように、悩んでいるのだろうか。

もしかして、クラスの子たちは上辺だけの付き合いなのかもしれない。

「それじゃあ、また明日。おやすみ桑野さん」

「うん、じゃあね。おやすみなさい野部君」

野部君は去って行った。



太郎の散歩を終え、風呂に入った後、ベッドに寝転ぶ。

本当の友達って何だろう?

何でも話せる友達?

お互いを傷つけない友達?

それとも……。

そもそも、本当じゃない友達って?

考えても、考えても、納得のいく答えは見つからない。

それでも、友里は私にとって本当の友達だと思う。

そう信じたいし、向こうもそう思っていてくれたら嬉しい。

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