ベストフレンド~本当の友達~

そろそろお昼になるので、フードコートに向かう。

フードコート内で、自由に選んで食べることになった。

選んでみたら、蕎麦、うどん、スパゲッティ、ラーメンと全員麺類だったので、おかしくなり笑ってしまった。

「桜の笑うところ、初めて見た」

友里が呟いた。

「え、そうだっけ」

そういえば、久しぶりに笑った気がする。

年単位で笑ってなかったかもしれない。

「うん、見れてよかった」

友里も笑みを見せる。

「桑野さん、初めて会った時より明るくなったよね」

会田さんが言った。

「そうですね。最初は陰気でとっつきにくい人だと思ってました」

私は変わったのだろうか。

たった1か月くらいしか経ってないけれど、友里と出会って、テニス部のメンバーと過ごすうちに、明るくなったのだろうか。

「じゃあ、みんな苗字で呼ぶのこれからは、なしね。下の名前を呼び捨てで呼ぶこと」

友里がそう提案した。

少し恥ずかしいけど、みんなうなずき苗字呼びはなくなった。



「じゃあ、次は佳織の行きたいところね」

友里が言った。

最初が友里、次に美羽だからか。

「私ですか? うーん、2階にあるゲームセンターに行きたいんですけど、うるさい音とか苦手な人います?」

「ゲームセンターとか行ったことないけど、どれくらいうるさいの?」

私が尋ねた。

「かなり、ですね。桜先輩、やめときます?」

「うん……ごめんね。本屋で待ってるよ」

私は本屋へ向かい、他3人はゲームセンターへ向かった。




本屋へ向かい、歩いていると。

「やっぱ私も本屋行くよ」

美羽が付いて来た。

「美羽も本とか読むの?」

「読むよ。いろいろ、何でも読むよ。桜は?」

「小説かな。ミステリーとか。恋愛小説も読むよ」

「へえ、いいね」

会話しているうちに、本屋に着いた。



私と美羽は小説のコーナーへ向かう。

お気に入りの作者の新刊が出ているのだ。

新刊が置かれていることを確認し、他の本やファッション雑誌も見て回る。

あれが面白い、あれが新しいなど、本について話しながら店内をめぐる。

その時間はとても楽しく、美羽の新しい面を発見できた。

友里と過ごすのも楽しいけれど、美羽と過ごすのも楽しい。

自然にそう思えた。

私は新刊を買い、美羽は有名人のエッセイを買った。

本屋の入り口で、佳織と友里と合流する。

「見て見てー、景品だよー」

友里は犬のぬいぐるみを掲げる。

クレーンゲームで取ったのだろう。

私はぬいぐるみとか欲しいとは思わないけど、友里は好きなのだろう。

「最後は桜の行きたい場所ね」

友里はそう言ったけれど、私の行きたい場所は本屋だ。

「本屋が行きたい場所だから、もういいよ」

「そっか、じゃあそろそろ帰る?」

友里の一言で、私たちは帰ることにした。

ちょっと時間は早いけれど、満喫したと思う。

私たちは商業施設を後にした。



帰りの電車に乗る。

佳織は車内で椅子に座ると、寝てしまった。

結構歩き回ったので、疲れたのだろう。

「可愛い寝顔だね」

友里が起こさないように、小声で言った。

私と美羽はうなずく。

「あ、そうだ。忘れないうちに」

友里はごそごそと自分のバッグを漁る。

「はい、誕生日プレゼント。さっきゲーセン行く途中に買ったの」

友里は腕時計をくれた。

割と大人っぽいデザインで、おしゃれだ。

「え、いいの? こんな高そうなの」

「もちろん、いいよ」

「ありがとう、友里」

いいのかな、こんなに幸せで。

心が温かくなる。

願うことは、この幸せがずっと続くこと。

本当に、友里との出会いに感謝したい。

「つけてみてよ」

友里に言われ、早速つけてみる。

「いいんじゃない?」

美羽が褒めてくれる。

「うん、すごくいいと思う」

友里も同じように褒めてくれる。

「……ありがとう」

急に、鼻の奥がツンとする。

目頭が熱くなる。

やだ、私泣きそう。

「うぅ……ぐすっ……」

「桜、どうしたの!?」

友里に心配される。

違うよ。

傷ついたわけじゃないよ。

「嬉しくて……」

「そっか」

「私、前の学校でいじめられてて……。小学校の頃からずっといじめられてて。ずっと、本当の友達もいなくて……。うぅ、だから、だからぁ。本当に……ありがとう」

私はぐしゃぐしゃに泣きながら、お礼を言った。

そして、初めていじめのことを言った。

この前、路地で泣いた時とは違う。

温かい涙だ。

「うん、こちらこそ。ありがとう。桜に会えて良かったよ」

友里はお礼を言った。

お礼を何度言っても足りない。

私、幸せだよ。

「あれ……桜先輩、何で泣いてるんですか?」

佳織を起こしてしまった。

「これは、嬉し泣きだよ。桜は友里が泣かしたの」

美羽が穏やかに言った。

目的の駅に着くまでの時間が、とてもゆっくりに思えた。


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