ベストフレンド~本当の友達~
職員室の前に着いた。

ドアに貼り紙があった。

職員室でのマナーが書いてある。

困ったことに、入り口で用事のある先生を呼ぶシステムのようだ。

担任の先生の名前を忘れてしまった。

転校前に会っているので、顔だけなら覚えているけれど、これでは先生を呼ぶことはできない。

どうしよう。

私は職員室の前で立ち尽くす。

私はいつもこうなってしまう。

何か困ったことがあると、誰も頼れなくて停止してしまう。

昔、ロボットのようだと言われたのがショックで、胸の奥に刻み込まれている。

「どうしたの?」

不意に後ろから声を掛けられ、飛び上がりそうなほど驚いた。

振り返ると、1人の女子生徒がいた。

その子は髪型はポニーテールで、カバンを肩に掛け、テニスラケットを入れたバッグを背負っている。

テニス部だろうか、活発そうだ。

「1年生?」

その子は聞いてくる。

「い、いや……ちが……」

私の口から出たのは、今にも消えそうな情けない声だった。

「あ! もしかして」

その子は何か思いついたようだ。

「転校生? 噂になってるよ」

噂にはして欲しくなかった。

誰とも関わらず、空気のような存在になりたかった。

その子は職員室のドアをガラッと勢いよく開けた。

「岩せんせー! 転校生の子が来てるよー!」

職員室中に響き渡る声で言った。

先生たちの視線が集まる。

そして、1人の男性教師が席を立つ。

「浜岡~。岩先生じゃなくて、岩井先生だって言っただろ」

思い出した、担任の先生の名前は岩井先生だ。

中年で顔はあまり格好良くなくて、体格の大きな先生。

そして、この子は浜岡さんらしい。

岩井先生は近づいてくる。

「それと、職員室のルールは守ること」

「はーい」

浜岡さんは幼児のような元気な返事をする。

理解した。

浜岡さんは私とは正反対の明るい平和な人生を歩んできた子だ。

一連の言動でそのくらいのことはわかる。

「それじゃあ、そろそろホームルームだし教室行くか」

私と浜岡さんと岩井先生は3人で教室へ向かう。

「浜岡、スカート短すぎるぞ。この前も注意しただろ?」

「どこ見てるんですか~。先生のエッチ」

「誰がてめえに欲情するかっての。俺は22歳未満は受け付けねえんだ。大人になって出直してきな」

「そんなこと言ってるから、未だに独身なんですよ」

「うっせえ、俺は一人の女に縛られないんだ」

「モテない言い訳ですか?」

「へいへい」

先生と浜岡さんは友達のように会話する。

その会話に混ざることなど到底できず、ただぼーっと聞き流す。

私は教師と親しく会話する、というのが理解できない。

教師は敵ではないけれど、助けてくれる存在というわけでもない。

いじめにおいて、役に立ったためしがない。

教室前に着いた。

どうやら、浜岡さんとは同じクラスのようだ。

「それじゃあね、えっと名前は?」

「桑野、桜」

私はなんとか、声を絞り出して自分の名前を言った。
< 4 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop