ベストフレンド~本当の友達~
修学旅行
テストの順位が発表された翌日のホームルームの時間。
「そろそろ、修学旅行だ。というわけで、来週までに自由行動のグループを決めておくように。4~5人のグループになるように組むんだぞ。男女比も同じくらいになるように。別のクラスの奴と組んでもいいぞ」
岩井先生から全員にそう連絡があった。
次の休み時間、早速修学旅行のグループ決めが行われる。
「桜ー」
友里が私の名前を呼びながら、近づいてくる。
「一緒のグループになろうよ」
「うん」
いじめられていた頃はこういう時、余ってしまって無理矢理どこかのグループに組み込まれたっけ。
その時にされた、悪口と嫌な顔は今でも覚えている。
本当に友達ができてよかった。
過去の嫌な記憶を振り払う。
「後は、美羽だね」
「男子はどうするの? 野部君?」
私が聞きながら、野部君を見る。
「あ、僕は修学旅行行かないよ。桑野さんには言ってなかったね」
「え!?」
私は驚いて声を上げた。
一方、友里は知っていたらしく、驚いていなかった。
「どうして?」
「3日も打てないと、感覚が鈍っちゃうからね」
「すごいね……」
そう言うことしかできなかった。
修学旅行は一生の思い出だと思う。
まあ、過去の私みたいにいじめられていたら、行きたくないかもしれないけど。
でも、野部君は違う。
一生の思い出を諦めてでも、プロテニス選手は叶えたい夢なんだ。
将来の夢なんて、まるで決まっていない私からすると、確固たる夢がある野部君は素直に尊敬できた。
「憲一君、お土産買ってくるからね」
「うん。ありがとう、友里」
野部君は次の授業の準備を始めた。
昼休み。
私たち4人は部室にいた。
「先輩達がいない3日間、放課後暇ですね」
佳織が寂しそうに言った。
佳織は同級生に友達がいないのだろうか。
「お土産何がいい? 佳織」
友里が聞く。
「沖縄っぽい物なら、何でもいいですよ」
「えー、何でもいいの? じゃあハブ酒とか泡盛とかでもいいの?」
「何でお酒なんですか!」
いつものコントに笑ってしまう。
「それより、男子は誰と組むの」
美羽が会話に入る。
私達は女子3人だから、男子2人組と組まないといけない。
「憲一君の友達でいいよ。大人しそうだし。明日、私から話しとくよ」
野部君の友達と言えば、坂上君と神崎君だ。
大体いつもその3人で行動しており、坂上君と神崎君もテニス部だ。
友里が言った通り2人とも大人しい男子で、授業中に発言することはないし、休み時間も大きな声で話すことはない。
私としても、その2人なら安心できそうだ。
「佳織、私達がいないからって、家でゲームばっかりしてちゃだめだよ」
友里がまるで母親のようなことを言った。
佳織はゲームセンターに行きたいと言うくらいだし、ゲームが好きなのだろう。
なんだか、男の子っぽい。
ゲームにやりすぎで、テストの点が悪いのだろうか。
「わかってますよ。それなりに気を付けます」
注意する側とされる側が、いつもと逆だ。
ちょっと面白い。
「あ、そうだ。次の休みの日、みんなで修学旅行に必要な物を買いに行こうよ」
友里が提案する。
「そうだね、いいね。行こう」
美羽が賛成し、私もうなずく。
「私は……」
佳織は迷っているようだ。
「佳織もせっかくだし、一緒に行こうよ」
友里が誘う。
「はい、そうですね」
そろそろ、昼休みも終わる。
私たちは教室に戻った。
その日、太郎の散歩をしていると野部君に出くわした。
「こんばんは、野部君」
「こんばんは、桑野さん」
なんだか、こうして挨拶して会話しながら散歩するのが日常の一部になっている。
太郎も野部君には吠えないし、懐いているのかもしれない。
「何だか、急に曇ってきたね」
野部君は空を見ながら言った。
真っ黒な雲が空を覆っている。
太郎の散歩なら、すぐに終わると思って傘は持って来なかった。
すると、ぽつぽつと降り始めた。
「降ってきたね。桑野さん傘持ってないみたいだね」
「うん、すぐに帰るよ」
と言った私を阻むかのように、本降りになってしまった。
勢いよく雨が叩きつける。
「わ、どうしよう」
「桑野さん、入って」
野部君は折り畳み傘を広げる。
私はその中に入れてもらう。
あまり野部君に近づきすぎると恥ずかしいので、絶妙な距離を取る。
野部君の身長は180センチくらいあるのだろうか。
近づくことで、大きいことが改めて実感できた。
太郎はなんだか、雨に喜んでいるみたいにはしゃいでいる。
そのまま、私たちは歩き出す。
「野部君はどうしてテニス始めたの?」
なんだか沈黙が恥ずかしいので、話題を振る。
「お父さんが部活でやってたから、その影響だよ。始めたのは5歳くらいからだったと思う」
私の両親はスポーツをやってこなかったので、そういうのはない。
「やっぱり、仕事にしたいくらいだから、テニスが好きなの?」
「うん。ここまで続けてこられたのは、好きってことの証明だと思うよ。でも、途中でやめたくなったことは、何度もあるよ」
「そうなんだ」
野部君のこういった愚痴とか、弱音みたいなことを言ってる姿はあまり見たことがない。
私は心が弱いので、やめたくなったらすぐにやめてしまうだろう。
「僕は幸せなんだと思う。好きなことに向かって一直線で、環境にも恵まれて、両親も応援してくれている」
「うん……」
私も野部君みたいに、好きなことに全力を注いでみたい。
いじめのせいで今までの人生、それどころじゃなかったけれど、これからは好きなことを探すのもいいかもしれない。
「やめそうになった時には、決まってお節介な幼馴染に色々言われてね。感謝してるよ」
「友里のこと?」
「うん、そうだよ。友里がいなかったら、やめてたかもしれない」
友里はすごいなあ。
いろんな人に、いい影響を与えている。
「友里もテニス上手だし、野部君の悩みがわかるのかな?」
「そうだと思うよ」
「友里は何で強い女子テニス部のある学校に行かなかったのかな?」
男子に勝ってしまうほどの実力があるのなら、今の女子テニス部のようなところではなく、もっと相応しいところがあるのではないかと思う。
まあ、この学校を選んでなかったら、私との出会いもなかったけれど。
学校のテニス部でなくても、テニススクールに通うとかいろいろ方法はあるはずだ。
「それは……友里に聞いた方がいいよ」
これも友里の過去の話になるのか。
いつか、友里自身が話してくれることを信じよう。
雨が止んできた。
通り雨だったのだろう。
「あ、そうだ。桑野さん、連絡先交換しない?」
「うん、いいよ」
そういえば、交換していなかった。
私たちはスマホのアプリで、連絡先を交換した。
完全に雨が止んだ。
「それじゃあ、雨も止んだし今日はこの辺で。おやすみなさい、桑野さん」
「おやすみ、野部君。傘、ありがとう」
私たちは別れた。
今更だけど、男子と相合傘するのは初めてだった。
なんだか、今になって恥ずかしさがこみ上げる。
知り合いに見られてないことを祈る。
帰った後、スマホのアプリにメッセージが来ていた。
「雨に濡れて、風邪ひいてない?」
というメッセージだった。
「大丈夫、ありがとう」
そう返した。
ちょっと、無愛想かもしれない。
「そろそろ、修学旅行だ。というわけで、来週までに自由行動のグループを決めておくように。4~5人のグループになるように組むんだぞ。男女比も同じくらいになるように。別のクラスの奴と組んでもいいぞ」
岩井先生から全員にそう連絡があった。
次の休み時間、早速修学旅行のグループ決めが行われる。
「桜ー」
友里が私の名前を呼びながら、近づいてくる。
「一緒のグループになろうよ」
「うん」
いじめられていた頃はこういう時、余ってしまって無理矢理どこかのグループに組み込まれたっけ。
その時にされた、悪口と嫌な顔は今でも覚えている。
本当に友達ができてよかった。
過去の嫌な記憶を振り払う。
「後は、美羽だね」
「男子はどうするの? 野部君?」
私が聞きながら、野部君を見る。
「あ、僕は修学旅行行かないよ。桑野さんには言ってなかったね」
「え!?」
私は驚いて声を上げた。
一方、友里は知っていたらしく、驚いていなかった。
「どうして?」
「3日も打てないと、感覚が鈍っちゃうからね」
「すごいね……」
そう言うことしかできなかった。
修学旅行は一生の思い出だと思う。
まあ、過去の私みたいにいじめられていたら、行きたくないかもしれないけど。
でも、野部君は違う。
一生の思い出を諦めてでも、プロテニス選手は叶えたい夢なんだ。
将来の夢なんて、まるで決まっていない私からすると、確固たる夢がある野部君は素直に尊敬できた。
「憲一君、お土産買ってくるからね」
「うん。ありがとう、友里」
野部君は次の授業の準備を始めた。
昼休み。
私たち4人は部室にいた。
「先輩達がいない3日間、放課後暇ですね」
佳織が寂しそうに言った。
佳織は同級生に友達がいないのだろうか。
「お土産何がいい? 佳織」
友里が聞く。
「沖縄っぽい物なら、何でもいいですよ」
「えー、何でもいいの? じゃあハブ酒とか泡盛とかでもいいの?」
「何でお酒なんですか!」
いつものコントに笑ってしまう。
「それより、男子は誰と組むの」
美羽が会話に入る。
私達は女子3人だから、男子2人組と組まないといけない。
「憲一君の友達でいいよ。大人しそうだし。明日、私から話しとくよ」
野部君の友達と言えば、坂上君と神崎君だ。
大体いつもその3人で行動しており、坂上君と神崎君もテニス部だ。
友里が言った通り2人とも大人しい男子で、授業中に発言することはないし、休み時間も大きな声で話すことはない。
私としても、その2人なら安心できそうだ。
「佳織、私達がいないからって、家でゲームばっかりしてちゃだめだよ」
友里がまるで母親のようなことを言った。
佳織はゲームセンターに行きたいと言うくらいだし、ゲームが好きなのだろう。
なんだか、男の子っぽい。
ゲームにやりすぎで、テストの点が悪いのだろうか。
「わかってますよ。それなりに気を付けます」
注意する側とされる側が、いつもと逆だ。
ちょっと面白い。
「あ、そうだ。次の休みの日、みんなで修学旅行に必要な物を買いに行こうよ」
友里が提案する。
「そうだね、いいね。行こう」
美羽が賛成し、私もうなずく。
「私は……」
佳織は迷っているようだ。
「佳織もせっかくだし、一緒に行こうよ」
友里が誘う。
「はい、そうですね」
そろそろ、昼休みも終わる。
私たちは教室に戻った。
その日、太郎の散歩をしていると野部君に出くわした。
「こんばんは、野部君」
「こんばんは、桑野さん」
なんだか、こうして挨拶して会話しながら散歩するのが日常の一部になっている。
太郎も野部君には吠えないし、懐いているのかもしれない。
「何だか、急に曇ってきたね」
野部君は空を見ながら言った。
真っ黒な雲が空を覆っている。
太郎の散歩なら、すぐに終わると思って傘は持って来なかった。
すると、ぽつぽつと降り始めた。
「降ってきたね。桑野さん傘持ってないみたいだね」
「うん、すぐに帰るよ」
と言った私を阻むかのように、本降りになってしまった。
勢いよく雨が叩きつける。
「わ、どうしよう」
「桑野さん、入って」
野部君は折り畳み傘を広げる。
私はその中に入れてもらう。
あまり野部君に近づきすぎると恥ずかしいので、絶妙な距離を取る。
野部君の身長は180センチくらいあるのだろうか。
近づくことで、大きいことが改めて実感できた。
太郎はなんだか、雨に喜んでいるみたいにはしゃいでいる。
そのまま、私たちは歩き出す。
「野部君はどうしてテニス始めたの?」
なんだか沈黙が恥ずかしいので、話題を振る。
「お父さんが部活でやってたから、その影響だよ。始めたのは5歳くらいからだったと思う」
私の両親はスポーツをやってこなかったので、そういうのはない。
「やっぱり、仕事にしたいくらいだから、テニスが好きなの?」
「うん。ここまで続けてこられたのは、好きってことの証明だと思うよ。でも、途中でやめたくなったことは、何度もあるよ」
「そうなんだ」
野部君のこういった愚痴とか、弱音みたいなことを言ってる姿はあまり見たことがない。
私は心が弱いので、やめたくなったらすぐにやめてしまうだろう。
「僕は幸せなんだと思う。好きなことに向かって一直線で、環境にも恵まれて、両親も応援してくれている」
「うん……」
私も野部君みたいに、好きなことに全力を注いでみたい。
いじめのせいで今までの人生、それどころじゃなかったけれど、これからは好きなことを探すのもいいかもしれない。
「やめそうになった時には、決まってお節介な幼馴染に色々言われてね。感謝してるよ」
「友里のこと?」
「うん、そうだよ。友里がいなかったら、やめてたかもしれない」
友里はすごいなあ。
いろんな人に、いい影響を与えている。
「友里もテニス上手だし、野部君の悩みがわかるのかな?」
「そうだと思うよ」
「友里は何で強い女子テニス部のある学校に行かなかったのかな?」
男子に勝ってしまうほどの実力があるのなら、今の女子テニス部のようなところではなく、もっと相応しいところがあるのではないかと思う。
まあ、この学校を選んでなかったら、私との出会いもなかったけれど。
学校のテニス部でなくても、テニススクールに通うとかいろいろ方法はあるはずだ。
「それは……友里に聞いた方がいいよ」
これも友里の過去の話になるのか。
いつか、友里自身が話してくれることを信じよう。
雨が止んできた。
通り雨だったのだろう。
「あ、そうだ。桑野さん、連絡先交換しない?」
「うん、いいよ」
そういえば、交換していなかった。
私たちはスマホのアプリで、連絡先を交換した。
完全に雨が止んだ。
「それじゃあ、雨も止んだし今日はこの辺で。おやすみなさい、桑野さん」
「おやすみ、野部君。傘、ありがとう」
私たちは別れた。
今更だけど、男子と相合傘するのは初めてだった。
なんだか、今になって恥ずかしさがこみ上げる。
知り合いに見られてないことを祈る。
帰った後、スマホのアプリにメッセージが来ていた。
「雨に濡れて、風邪ひいてない?」
というメッセージだった。
「大丈夫、ありがとう」
そう返した。
ちょっと、無愛想かもしれない。