ベストフレンド~本当の友達~
家に着いた。
叔母さんが玄関で待っていた。
「明日は修学旅行でしょう?」
「はい」
「……気を付けて行ってくるのよ」
「……はい」
叔母さんの態度は、前よりだいぶ柔らかくなった。
私が明るくなったからだろうか。
風呂の入り、自分の部屋に戻る。
友里からアプリにメッセージがあった。
「修学旅行、楽しもうね」
だそうだ。
さて、何て返そうか。
スマホでメッセージのやり取りを何度かしていて、わかったことがある。
私はメッセージのやり取りが苦手だ。
どうも素っ気ない文章というか、堅い感じになってしまう。
実際に会話をしていた方が気が楽だ。
相手の表情が見えないので、機微がわからず、何を書いていいかわからないのだ。
それに、変な風に取られないかと、心配になってしまう。
絵文字なども苦手だ。
何の絵文字を使っていいか、まるでわからない。
苦手な原因は、メッセージのやり取りの経験が不足していることだろう。
いじめられていたから、やり取りする相手がいなかったのだ。
ああでもない、こうでもないとメッセージを書いたり消したりした。
最終的に「うん、そうだね。楽しもう」とだけ返した。
我ながらつまらない。
まだまだ修練が必要だ。
なんだか少し疲れた。
寝ようとしたら、今度は野部くんからメッセージが来た。
「楽しんできてね。お土産話楽しみにしてるよ」
というメッセージ。
また、返事に悩む時間が始まる。
友里より悩んだ。
結局、寝るのが遅くなってしまった。
私は向いてないのかもしれない。
翌日。
天気は晴れ。
私たちの学校は、隣町の駅に集合する予定になっている。
叔母さんは車の免許を持っていないので、自分で行かないといけない。
まずは、友里と美羽と共に電車に乗って、隣町の駅に向かうことになっている。
駅で待っていると、美羽が来た。
美羽の私服はいつも通り、大人っぽい。
「おはよう、桜」
「おはよう、美羽」
「友里は寝坊?」
「さすがに、修学旅行で寝坊はしないんじゃないかな」
とはいっても、友里のことだからあり得るかもしれない。
電車の時間まで後5分という時になって、友里は来た。
「遅れてごめん」
「友里、ギリギリだよ。もうちょっと余裕を持ってよ」
美羽が注意する。
「ごめんごめん。さ、乗ろう」
私たちはホームに行き、なんとか電車に間に合った。
平日の朝なので、座席に座ることはできない。
私たちは大荷物なので、他の乗客の邪魔にならないようにする。
「私、楽しみで眠れなかったんだ」
友里がウキウキしながら言った。
「小さい子供か」
美羽がツッコむ。
私はふと、窓から遠くの景色を見る。
今頃、私をいじめた人たちは何をしているんだろう。
順風満帆で楽しい学校生活を送っているかもしれない。
でも、以前はあった復讐したいという気持ちは薄れてきている。
今、とても楽しいから。
いじめられていたことを、忘れることはできない。
心の傷はきっと、いつまでも抱えていく。
それでも、世界のどこかには私を受け入れてくれる場所があることを、友里たちに教わった。
本当に感謝している。
「どうしたの? 桜」
友里が顔を覗き込んでくる。
「何でもないよ」
「そっか、良かった」
友里は安心したような表情を見せる。
それから、3人で雑談しているうちに電車は目的の駅に着いた。
「おう、おはよう3人とも」
岩井先生に出迎えられる。
「おはようございます」
私たちは挨拶を返した。
既に駅の集合場所には、ウチの高校の生徒たちが多く集まっている。
集団は班ごと並んでいるので、私たちも並ぶ。
神崎君と坂上君は既に来ていた。
その後、時間が来て学年主任の先生から挨拶があった。
いよいよ、出発だ。
私たちはぞろぞろとホームへ移動する。
しばらく待ち、新幹線がホームに到着した。
「さっさと乗るんだぞ!」
学年主任の先生が、大声を上げていた。
私たちは新幹線に乗り込む。
車内でも同様に、班ごとに席が分かれている。
席に着くなり、友里はトランプを広げた。
「みんなでやろうよ」
友里はカードを切っている。
座席を向い合せ、トランプを始める。
神崎君と坂上君も参加するようだ。
「何やるの?」
私が聞く。
「まずはババ抜き」
友里はカードを配る。
その後のババ抜きは、なかなか白熱した。
特に坂上君が強く、5回中3回一抜けだ。
他にも、乗り換えも含めた空港までの2時間の間で様々なゲームを行ったが、坂上君の強さは際立っていた。
「坂上君、強いね」
私が褒めると。
「いや、それほどでも」
坂上君は恥ずかしそうに答えた。
「こいつ、テニスでもいやらしい球ばっかり打ってくるんだよ」
神崎君が坂上君について教えてくれた。
2人は仲がいいのか悪いのか、よくわからない。
空港に着き、飛行機に乗る。
飛行機に乗るのは初めての経験だ。
機内は意外と狭い。
大荷物を持って通路を通る場合は、すれ違うのも一苦労だ。
そして、離陸する瞬間は感動したけど、後はどうということもない。
窓もなんだか小さいので、もっと大きな窓から空を見たいなあと思った。