ベストフレンド~本当の友達~
いつの間にか、眠っていたらしい。

目を覚ますと、隣の席の友里も眠っていた。

そして、友里は泣いていた。

まただ。

公園の時と同じ。

友里は何に苦しんでいるのだろう。

何か怖い夢でも見ているのだろうか。

私は友里を揺り起こす。

「友里、友里……」

「ん……」

友里は目を覚ました。

「友里、泣いてたよ」

「え、そうだった? 怖い夢かな。覚えてないや。あはは」

友里は今度は笑っていた。

誤魔化しの笑いだということくらいは、わかる。

でも、追及はしない。

友里がいつか、話してくれると信じているから。




飛行機が滑走路に着陸した。

そして、飛行機を降りて空港を出た。

天気は快晴、雲一つない。

「暑い! さすが、沖縄だね」

友里が太陽にに手をかざしながら言った。

私はそこまで、暑く感じない。

気分の問題だろう。

友里は暑ささえ、楽しんでいる。

バスに乗り込み、ホテルへ向かう。

バスはクラスごとなので、美羽とは一旦別れる。




ホテルに近づくと、海が見えてきた。

初めて嗅ぐ、潮の香りが漂ってくる。

「すごーい! 海だ!」

友里は車窓から身を乗り出す。

「こら、浜岡! 落ちても知らんぞ!」

岩井先生に叱られていた。

「すいませーん」

車内で笑いが起こる。

私は海に行ったことがない。

海は実際にはどんな場所なのか、今からワクワクする。



ホテルに着いた。

ロビーはお城のように豪華で、思わずシャンデリアのまぶしさに目がくらみそうだった。

他のお客や従業員が沢山いる、

まずは、荷物を置きに自分たちの部屋へ行くことになっている。

他のお客の邪魔にならないように、速やかに客室へ移動した。

部屋は友里と美羽と私の3人部屋だ。

部屋に入る。

「すごーい! 海だー!」

友里が大きな声を上げた。

全室オーシャンビューとは聞いていたけれど、ベランダからの展望がここまで海一色だとは思わなかった。

ベランダから飛び降りたら、そのまま海に飛び込めそうだ。

「見て見て、天井に扇風機ついてる」

友里が天井を指差す。

「扇風機じゃないって、シーリングファンだよ」

美羽が冷静にツッコむ。

私も名前は知らなかった。

美羽は物知りなのだろうか。

「何でもいいよ。ベッドに飛び込んでいい?」

友里はうずうずしている。

「だめ。大人しくしてなって」

美羽に止められ、あからさまに落ち込んでいる。

友里は冷蔵庫を開けたり、テレビをつけたりしている。

友里は何でも楽しむなあ。

「それじゃあ、ロビーに戻ろう」

私が言い、3人でロビーに戻る。




ホテルの前に止まっているバスに乗り込む。

今から、平和学習としてひめゆり平和祈念資料館ヘ向かう。

「お前らあんまり騒ぐなよ。平和学習だからな」

岩井先生が浮かれている私達を注意する。

友里は大丈夫だろうか。

もしかしたら、騒ぐかもしれない。



資料館に着いた。

館内にはひめゆり学徒隊の資料が数多く展示されている。

雰囲気は重苦しく、戦争の悲惨さが伝わってくる。

そんな中、一部の生徒たちが早々に飽きてしまったようで、雑談をしている。

その声は静かな館内に響き、一般の来館者の中にはあからさまに顔をしかめる人もいた。

私は雑談する生徒の姿に、いじめを重ねた。

苦しさや痛みを知らなければ、ここまで無関心になれるのだ。

「おい、お前ら静かに――」

岩井先生が注意しかけた時。

「みんな、静かにしてよ!」

友里が大きな声で注意した。

すっと、静かになった。

友里はやっぱりすごい。

さっきバスの中で、友里が騒ぐんじゃないかと疑った自分を恥じ、心の中で謝罪した。

その後の見学は順調に進み、最後の証言ビデオを見る。

私たちからは想像もできないような、悲惨な時代を生きてきた人たち。

私は今の平和のありがたさを感じた。

バスに乗る前、トイレ休憩になった。

「ごめん、桜。トイレに行くからこれ持ってて」

友里に荷物を渡される。

「わかった」

友里はトイレに向かった。

「なんなの、友里」

友里がトイレに行った姿を確認した一人の女子生徒が、そう言い出した。

「真面目ぶっちゃって。先生に媚び売ってるのかな? それか、推薦入試でも狙ってんの?」

「そうそう、やな感じ」

少し遠くにいる先生には聞こえないように、静かに話している。

前もこんなことがあった。

私はやはり動けなかった。

美羽を見る。

美羽は怖い顔をしていた。

私と同じで、友達のために怒っているのだ。

友里は正しいことをした。

なのに、どうして非難されないといけないのだろう。

正しいことだけすればいいわけではない。

そんなことは、もうとっくにわかっている。

でも、その不条理に耐えられなかった。

友里が戻ってくると、陰口は中断された。

先生たちが全員いることを確認し、バスに乗り込むよう指示した。


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