ベストフレンド~本当の友達~
「いい名前だね。私は浜岡友里。自己紹介、期待してるからね」

浜岡さんは笑顔を見せ、教室に入った。

「桑野。俺が呼んだら教室に入ってくるように。そんで、自己紹介だ」

「はい……」

岩井先生は教室に入った。

「お前らー静かにしろー!」

先生の声が中から聞こえる。

先生が「転校生が来る」と言うと、教室は騒がしさを増す。

期待させるのが申し訳ない。

こんな、暗くてどうしようもない人間が転校生だなんて、きっとがっかりするだろう。

「桑野、入って来い」

私は教室のドアに手を掛ける。

手が震える。

このまま、逃げてしまおうか。

そして、そのままどこか高い場所から飛び降りるか、大型車にでも轢かれれば……。

できない。

怖いよ。

生きていくのも嫌だけど、死ぬのは怖い。

こんな臆病者の私には、どこにも居場所はない。

願うことは一つ。

いじめられませんように。

私はドアを、開けた。

教室中の視線が突き刺さる。

嫌だ、見ないで。

私を、どうか許して。

「桑野、こっちだぞ」

先生に呼ばれ、隣まで行く。

「桑野、自己紹介。黒板に名前を書いてくれ」

チョークを渡される。

震える手で、黒板に名前を書く。

汚い字だった。

「桑野、桜です」

それだけ言えた。

重い沈黙が、教室を飲み込む。

逃げたい。

消えたい。

誰か、助けて。

パチパチパチ。

その時、拍手が唐突に湧いた。

浜岡さんだ。

呼応するように、拍手の波が大きくなっていく。

なんなの、これ。

私は歓迎されている?

こんな私が?

いや、違う。

まだ、みんなは私のことを知らない。

私がいかに、ダメな人間であるかということを。

「それじゃあ、席はあそこだ」

先生が1つの席を指さす。

私は少し急いで席へ向かう。

隣は大人しそうな男子生徒だ。

髪型も顔つきも落ち着いた感じだ。

制服も綺麗に着ている。

とりあえず、この男子から暴力を振るわれることはなさそうだ。

座ってるのでよくわからないが、身長は大きそうだ。

「よろしく、桑野さん。僕は野部憲一」

野部君は頭を軽く下げながら、あいさつした。

私は小さく会釈を返すことしかできなかった。
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