ベストフレンド~本当の友達~
試合は2時間を越していた。

平均的な試合時間から見ると、長い方だ。

野部君も相手も走り続けている。

お互い、どれだけ体力と気力を鍛えてきたかがわかる。

野部君がサービスエースを決める。

「ヨッシャァ!!」

野部君が拳をぐっと握る。

一際大きな歓声が上がった。

マッチポイントだ。

後1ポイント野部君が取れば、決まる。

「取れるよ!!」

友里が大声を出した。

一瞬、野部君がこちらを見た。

野部君は視線を戻し、打つ態勢に入る。

決まって欲しい。

勝って、決勝まで進んで欲しい。

純粋にそう願う。

野部君が息を吐く。

静かになる。

そして、サーブを放った。

ファーストサーブはネットに掛かった。

セカンドサーブを打つ態勢に入る。

数秒、時間を置いた。

セカンドサーブを放つ。

入った。

レシーブが返る。

野部君は追いつき、速球で返す。

ストローク戦だ。

互いに相手を探りながら、攻撃の時を計る。

相手が前に出る。

それを予感していたのか、野部君は速球で脇を抜く。

抜けた。

入った。

しん……と静かになる。

「ゲームセット」

審判のコールが響いた。

今日一番の歓声が、会場中に響き渡る。

地鳴りが起きそうなほどの大声。

野部君は拳を突き上げた。

相手は膝に手をついて、うなだれる。

勝敗は決した。

「やったー!」

私は思わず、声を上げた。

美羽と佳織も喜んでいる。

だけど、友里は静かに野部君を見つめていた。

野部君と相手選手は握手を交わし、荷物を持ってコートから出てくる。

野部君は部活の仲間たちから、祝福を受けている。

そして、こちらに気付き近づいてくる。

「野部君、おめでとう」

私が言った。

「応援ありがとう、みんな。明日も勝つから」

野部君はそう言って、去って行った。

その時、気付いた。

野部君のテニスバッグから、シーサーのお守りがなくなっていた。

「友里?」

美羽が友里を見る。

友里はさっきから何も言わない。

どうしたんだろう。



試合も終わったので、ホテルに戻った。

部屋に戻るなり、友里は寝てしまった。

私は今日の試合を思い出す。

とても激しい試合で、野部君の新しい一面が見えた。

普段は温和で柔らかい印象なのに、試合になるとあんなに感情を露わにするなんて思いもしなかった。

なんだろう、試合の時の野部君の表情を思い出すたびに、すごくドキドキする。

どうしてだろう。

私は答えを出すのをやめ、寝ようとした時友里のスマホが鳴った。

友里は目を覚まし、スマホを見る。

「ちょっと、出てくるね」

友里はそう言って、出て行ことする。

「野部君?」

私が聞くと、友里はビクッとした。

「う、うん、そうだよ。行ってくるね」

何の用件だろう。

友里が出て行ったあと、私の心に少し波が立った。

自分でもよくわからない感情……いや、わかろうとしていないだけだ。

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