ベストフレンド~本当の友達~
翌日。

昨日同様、ホテルで朝食をしっかり取り試合会場へ向かう。

友里の口数が少ない。

「ねえ、友里。どうしたの? 熱中症?」

私が聞く。

「ち、違うよ」

「友里先輩、昨日から全然しゃべらないじゃないですか」

「ちょっと、疲れただけだよ」

「じゃあ、ホテルで休んでた方が……」

私が言うと、友里は首を振った。

「大丈夫だよ」



試合会場に着いた。

決勝戦が行われる日、ということもあり人が昨日より多い。

昨日同様、野部君がちょうどコートに入るところだった。

昨日、友里に言われたので声は掛けない。

そして、試合が始まる。



異変が起きたのは、試合が始まって1時間ほど経過した時だった。

それまで、機敏に動いていた野部君の足が動かなくなってきた。

取れるはずのボールが取れない。

そんなことが何度か続いた。

そして、野部君は転んだ。

「あ!」

友里が声を上げた。

野部君は足を押さえたまま、立ち上がらない。

会場中に動揺が走る。

大丈夫だろうか。

野部君は足を引きずって審判台まで行く。

審判に何か言っている。

ここからだと、聞こえない。

「何言ってるんだろう?」

私が呟くと。

「棄権するんだよ」

友里が小さく言った。

友里にはわかるのだろうか。

「え……そんな」

野部君と審判と相手選手がコートの中央に集まる。

審判は何かを言って、相手選手と野部君はコートを出た。

「野部く……」

私は声を掛けようとした。

でも、できなかった。

野部君が泣いていたからだ。

きっと、この大会に向けて全力を注いで練習してきたんだ。

それが、こんな終わり方になってしまった。

重苦しい雰囲気のまま、男子シングルスの決勝は終わった。



表彰式が終わり、野部君とは話せずホテルに戻る。

ホテルの部屋に着くと、スマホのアプリにメッセージが来た。

野部君からだ。

「ごめん。せっかく応援してもらったのに」

というメッセージ。

こんな時でも謝るのは野部君らしい。

「大丈夫だよ。ゆっくり休んで治してね」

足の状態のことはよくわからないけど、そう返した。

大阪でやることはもうない。

「帰ろう」

私は友里に言った。

「ごめん、ちょっと出てくる」

友里は謝って、部屋を出ようとする。

「野部君に会ってくるの?」

私が聞くと、友里は足を止めた。

「うん……」

野部君と長い付き合いのある友里なら、適切な言葉を掛けることができるだろう。

私では無理だ。

……でも、そのことがちくりと胸の内を刺す。

私も野部君の力になりたい。

野部君とは席は隣だし、委員会も一緒だし、太郎の散歩ではよく会っている。

私にもできることがあるんじゃないだろうか。

「私も、行っていいかな?」

「え? ……ごめん、それは無理」

友里は部屋を出た。

突き放されたような気分だ。

こっそり後をつけようか。

いや、やめておこう。

どうして私は、野部君のためにこんなに必死なんだろう。

そういうこと、なんだろうか。




友里が帰ってくるまで、部屋でテレビを見て待った。

内容は頭に入って来ない。

30分ほどして、友里は帰ってきた。

「どうだった?」

「うん、足は大丈夫だよ。しばらく安静にしてる必要はあるけど」

「足以外も大丈夫なの?」

「えっとね、精神がちょっと。だいぶ落ち込んでる」

あんな大事な場面で、怪我をしてしまったのだから落ち込むのは当然だろう。

「私で力になれるかな?」

「桜は、いつも通り接してあげればいいんじゃないかな」

「うん……」

そして、私たちはホテルを出て大阪を後にした。



野部君の試合があんなことになってしまい、帰りの新幹線や電車の中では、沈黙が支配していた。



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