ベストフレンド~本当の友達~
駅でみんなと別れ、家路に着く。

野部君は大丈夫だろうか。

そのことだけを考えつつ歩く。

叔母さんの家に着いた。

私は荷物を置いて着替えた後、太郎の散歩に向かう。




太郎の散歩をしていると、野部君に出くわした。

今日は会わないと思ってたので、驚いた。

「野部君も帰ってたんだ。歩いても大丈夫なの?」

「うん、そこまでひどくないからね。数日間安静にしてれば、完全に回復するよ。これからテニススクールでやることが色々あるんだ」

「そっか、大変だね」

選手生命に関わる怪我でないことに、安心する。

「あ、あのさ。実は桑野さんに相談があるんだ」

「相談? 私で力になれればいいんだけど」

テニスのことを相談されても私では答えられないけれど、いいのだろうか。

野部くんは相談があると言ったものの、なかなか話し出そうとしない。

「どうしたの? 言いにくいことなの?」

「うん……」

野部くんの力になれるなら、精一杯頑張りたいと思う。

野部くんは意を決したのか、話し出す。

「実は、友里のことなんだけど」

「友里のこと?」

「いや、正確には違うかな」

「うん……」

何だろう?

要領を得ない。

「実は……友里に告白したんだ」

「え!?」

野部くんが友里に告白。

その事実が受け入れられなくて、思わず目眩を起こして倒れそうだった。

野部くんは以前言ってたじゃないか「友里とはそういう関係じゃない」って。

あれは嘘だったのか、それとも心変わりしたのか。

どちらにせよ、詳しく聞かないといけない。

「い、いつ告白したの?」

「大会が始まる前」

友里の態度がおかしかった理由がわかった。

「大会が始まる前、優勝したら付き合って欲しいって言ったんだ」

「そうだったんだ……。それで、どうなったの?」

野部くんは準優勝だ。

優勝が条件なら、付き合わないはず。

付き合わないことを期待している自分がいた。

「それで……断られたよ」

「そっか」

「……桑野さんが僕のことを好きだから、付き合えないって」

「え……や……それは……」

上手く言葉が出てこない。

脳内で思考がぐちゃぐちゃになる。

私は自分の気持ちさえもよくわかっていない。

それ以上に、友里に対して様々な感情が押し寄せる。

それは、荒波のように私を飲み込む。

思い出すのは、野部君の試合していた時の顔。

あの顔を思い出すと、胸の内がざわつく。

はっきり言えば、ドキドキする。

「桑野さんは、僕のこと好きなの?」

何て答えればいいの?

誰か、教えてよ。

周りを傷つけないで済む方法を、言葉を。

「野部君のことは、友達だと思ってるよ。異性としての好きはないよ」

そう、答えた。

まるで、自分の口から出た言葉じゃないみたいだった。

だから、口を動かすのは簡単だった。

「そっか、わかったよ」

野部君は去って行った。

シーサーのお守り、今はどこにあるんだろう。

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