ベストフレンド~本当の友達~
その後、泣き止んだ私たちは、教室の盗聴器を取りに行くことにした。

盗聴器を取り外している間は、沈黙が支配していた。

野部君は部活に戻った。

帰り道。

友里と一緒に帰る。

「ねえ、友里」

「何?」

「私もみんなも、盗聴器を仕掛ける気持ち、わかるよ」

「そうかな?」

「誰だって、陰口は気になるよ。だから、落ち込まないで」

盗聴は許される行いではない。

でも、自分が悪く言われてるかどうか気になるのが普通だ。

特に、私たちのような元いじめられっ子だったら。

「ありがとう、桜」

友里はこの日、初めて笑みを見せた。

「美羽や佳織とは、私が話すよ。必ず、連れ戻すね」

「うん……」

「明後日の夏祭り、必ずみんなで行こう」

「うん!」

友里は力強く返事をした。

この地域で開かれる夏祭り。

以前から、みんなで行こうと盛り上がっていた。

絶対に、みんなで行こう。

友里と別れ、まずは美羽の家に向かう。



美羽の家に着いた。

インターホンを鳴らすと、母親と思われる人が出てきて、美羽を呼んでくれた。

玄関に美羽が出て来た。

「桜……どうしたの?」

「話をしようよ」

「わかった、部屋に上がって」

美羽の部屋に上げてもらう。


部屋に上がる途中、ピアノが見えた。

そういえば、以前商業施設に行った時に楽譜を買ってたっけ。

美羽の部屋は片付いていて、本が沢山ある。

修学旅行で作ったブレスレットや、水族館で買った亀のぬいぐるみもあって、嬉しくなった。

「で、友里の話でしょ?」

美羽が聞いてくる。

「うん」

「まさか、桜は美羽と友達でい続けるわけ?」

「うん、そうだよ」

「……なんとなく、そんな気はしてたけどね」

「美羽はもう、友里とは関わらないつもりなの?」

美羽は返答に時間を掛けた。

何かを考えているかのようだった。

私はじっと、美羽を見つめて返答を待った。

「……すぐに答えは出せないかな。複雑だよ。許せない気持ちもあるし、友里と友達でいたい気持ちもある」

良かった。

絶対に許せないと言われたら、どうすればいいかわからなかっただろう。

まだ、やり直せる。

「私はさ、友里に誘われるまで一人だったんだ。一匹狼って言えば聞こえはいいけど、本当は友達が欲しかったの。寂しくて仕方なかった。学校やめようかとさえ思ったの」

「そうだったんだ……」

美羽の気持ちはわかる。

学校に友達がいないということは、とても寂しいことだ。

それこそ、学校に行く意味さえ見いだせなくなる。

学校はただ座って授業を受けるだけの場所じゃない。

大人からしたら、わからないとか下らないとか思われるかもしれない。

でも、学校の友達って本当に大切だ。

だからこそ、みんな上辺だけでも友達付き合いをしようとする。

「友里には感謝してるよ。だからこそ、許せない気持ちもある」

「私たちは、友里に依存してたんだよ」

「依存?」

美羽は不思議そうな顔をする。

「そう、友里がいつも楽しいことを提案してくれたり、空気を和ませてくれたから、友里に付いて行けばいいって思ってたんだよ。だから、友里は私たちといても、孤立してたんじゃないかな?」

美羽は下を向く。

「うん、そうかもしれないね」

「そろそろ、友里に恩返しする時だと思うよ。私たちは友里にいろんなことをしてもらったんだし、友里にも返さないと」

「うん……」

うなずいた美羽の表情は心なしか、来た時より晴れていた。

「もし、友里とやり直す気があるなら、夏祭りに来てほしい」

美羽は答えない。

「待ってるから」

私は美羽の部屋を出て、そのまま家を出た。




次に向かうのは佳織の家。

家の前に着き、インターホンを鳴らすと佳織が出て来た。

「何ですか? 桜先輩」

「話をしようよ」

佳織は部屋に上げてくれた。

佳織の部屋にはパソコンやゲーム機があり、ゲームソフトが並んでいる。

まるで、男の子の部屋みたいだ。

私たちがあげた、修学旅行のお土産も置いてある。

「話って、友里先輩のことですか?」

「うん、そうだよ」

「……話すことはないです。許せません」

美羽より態度が硬い。

でも、諦めない。

「私は友里と友達でいつづけるよ」

佳織は少し驚いた表情をする。

「いいんですか? 盗聴したんですよ」

「それは、よくないことだと思う」

「だったら」

「本当に、どうしても許せないの?」

そう聞くと、佳織は言葉に詰まった。

沈黙が流れる。

「そりゃあ、部活は楽しかったですし、みんなで遊びに行くのも楽しかったから、続けられるなら続けたいですよ。それに、友里先輩に誘ってもらわなかったら、私は一人ぼっちのままだったでしょうし」

佳織も美羽と一緒だったんだ。

「私たちは友里のこと、全然知らなかったんだよ」

「友里先輩のこと、ですか?」

「うん、いつも私たちを楽しませてくれる存在で、私たちはそれ以上踏み込もうとしなかったんだよ。友里だけに苦労させてたんじゃないかな?」

「……確かに、そうかもしれませんね。それに、友里先輩は昔のこと何も話しませんし」

「私は友里の昔のこと、友里から聞いたよ。そのことは、本人から聞いてほしい」

「はい、そうですね」

「もし、友里から完全に離れる気がないなら、夏祭りに来てほしい」

佳織も美羽同様、答えない。

でも、美羽同様、表情が変わった。

明るくなった気がする。

「待ってるから」

私は佳織の部屋を出て、そのまま家を出た。



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