ベストフレンド~本当の友達~
翌日。

朝目覚めると、スマホが鳴った。

友里からアプリにメッセージが来ていた。

「会いたい」

とだけ、書かれていた。

まるで恋人みたいだと、一人で苦笑する。

まあ、私たちの結びつきは恋人なんかより強いと思う。

友里もそう思ってくれていたら嬉しい。

場所と時間を決め、家を出た。



天気は晴れ。

蝉がうるさく合唱している。

アスファルトが溶けそうなほど、暑い。

そんな中、私と友里は公園で鬼ごっこをしていた。

キャーキャー言いながら、必死に追いかけたり逃げたり。

時間を忘れて、鬼ごっこをした。



1時間後。

さすがに疲れたので、休憩する。

2人とも、汗だくだ。

これ以上やると、熱中症になってしまう。

「で、どうして鬼ごっこしたいって言い出したの?」

友里に聞いてみる。

「うーん、不安だから。体を動かしてれば考えずに済むからかな」

明日の夏祭りのことだろう。

本当に、美羽と佳織は来るのか。

もしかして、2人とも来ないのではないか。

そんな不安があるのだろう。

「大丈夫だよ。2人とも来るよ」

「うん……」

友里の顔に不安は似合わない。

笑っていてほしい。

「友里、私を信じて。みんなを信じて」

私から、笑みを見せた。

「……うん!」

「前もこうして鬼ごっこしたね。楽しかったよ。友里はいつも楽しいことを思いつくし、みんなを楽しませてくれたよね」

「そうかな? 私は自分のしたいようにしてるだけだよ」

だったら、尚更すごい。

私にはできない。

友里は私にはない、良い所を持っている。

だけど、友里にも欠点がある。

「ねえ、友里。不安な時や悩んでいる時は、必ず相談して。絶対に力になるから。一人で抱え込まないでね」

友里の欠点は、相談できない所だろう。

人に弱みを見せられない。

だから、一人で抱え込んで盗聴をした。

「うん、ありがとう。桜」

私たちは笑い合う。




夜になった。

寝るために、ベッドに入る。

少し考え事をする。

思えば、濃い数か月だった。

友里に出会って、女子テニス部に入って、佳織や美羽、野部君に出会って、沖縄や大阪に行って……。

友里に出会って女子テニス部に入る前は、ずっと暗くて下を向いて歩いてた。

自分の居場所も、生きる価値も、何も見出せていなかった。

でも、私は変わった。

いろんな人に出会って、いろんな人と関わって、世界が変わった。

世界のどこにも居場所がない人間なんていない。

みんな、生きる価値があるんだ。

そんな風に、気付くことができた。

ありがとう、みんな。



翌日。

夏祭りが始まる夕方まで、家にいた。

勉強をしていたけれど、なんだか手につかなかった。

友里にはああ言ったけれど、自信満々というわけではない。

美羽と佳織は来てくれるのだろうか。

もし、来てくれなかったら、友里はどうなってしまうのだろう。

女子テニス部は潰れてしまうのだろうか。

そう考えると、不安が湧いてくる。

もし、2人とも来なかったとしても、私だけは友里と友達でいよう。

女子テニス部はなくなってしまうかもしれないけど、テニスは続けよう。

そう心に決めた。



夕方になった。

浴衣を着て、部屋を出る。

「叔母さん、行ってきます」

テレビを見ている叔母さんに挨拶をする。

「あんまり遅くなっちゃだめよ」

「はい」

家を出る。

太郎が尻尾を振って吠えている。

ごめんね、今日は散歩行かないんだ。

太郎の頭を撫でてやる。

そのまま、集合場所である夏祭り会場近くまで向かう。



私が一番乗りだった。

集合場所に、私以外の3人の姿はない。

不安が増す。

でも、まだ時間はある。

私はその場で待つ。

お願い。

来て。

美羽、佳織、友里。

何度祈っただろう。

遠くから、見覚えのある姿が。

「美羽ー!」

私は大声を出して、思い切り手を振る。

「ちょっと、恥ずかしいから大声で呼ないでよ」

美羽は頬を染めている。

美羽も浴衣だ。

よく似合っている。

「来てくれたんだ」

「……まあね。友里には言いたいこともあるし。で、友里と佳織は?」

「まだだよ」

「じゃ、待とう」

私たちは2人になった。



それから、数分後。

「桜先輩、美羽先輩」

不意に後ろから声を掛けられた。

振り向くと、浴衣姿の佳織がいた。

佳織も似合っている。

「佳織!」

私と美羽は同時に声を上げる。

「来ちゃいました」

「ありがとう、佳織」

私はお礼を言った。

「私が来たくて来たんです。お礼はいいですよ。それより、友里先輩はまだですか?」

「うん、まだみたい」

もしかして、友里は不安に思うあまり逃げてしまったのだろうか。

そんな悪い予感が、脳裏をよぎった。

私は信じる。

友里は必ず来る。

友里には伝えたいことがあるんだ。

とても大切なこと。

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