ベストフレンド~本当の友達~
それから何年が経っただろう。

高校を卒業して、私たちはバラバラの進路を歩んだ。

大学だったり、専門学校だったり、そのまま就職だったりする。

「久しぶりに会おう」

それは、友里の呼びかけだった。

全員の仕事の休みが合う日。

そんな日が、偶然あった。

まるで、神様からのプレゼントだ。



恋人と会うわけでもないのに、気合を入れて化粧をした。

服だって入念に選んだ。

だって、恋人より大切かもしれないから。

まあ、未だに恋人はできたことがないのだけれど。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

両親に挨拶をして、玄関から出る。

天気は快晴。

風が少し吹いていて気持ちいい。

私は今、実家に住んでいる。

太郎はなんだか私に懐いてしまったため、叔母さんから貰ってきた。

太郎が尻尾を振ってよぼよぼした足取りで近づいてくる。

ごめんね、散歩じゃないんだ。

太郎の頭を撫でた後、愛車の鍵を開けた。

車のドアを開けてシートに座り、シートベルトをしてエンジンを入れる。

サイドブレーキを解除して、ギアをドライブにする。

アクセルを踏み、車を発進させる。



車は快調に進む。

目的地は近所の喫茶店。

ラジオから最近流行りの歌が流れる。

同乗者がいないので、私はラジオに合わせて歌う。

高校時代、みんなとカラオケに行って、歌うことの楽しさを覚えた。

また、みんなで行きたいな。



喫茶店に着いた。

駐車場に車を停める。

エンジンを切りサイドブレーキを掛けて車を降りる。

車の鍵を閉めて、店内に入る。

カランカランと音がした。

「いらっしゃいませー」

待ち合わせであることを店員に伝え、4人座れるテーブルに案内してもらう。

椅子に座る。

文庫本を取り出して読んでいると、誰かが店に入ってきた。

「桜、久しぶり」

「美羽」

美羽だ。

美羽が席に着く。

しばらく待つと、再びお店のドアが開いた。

「先輩方、お久しぶりです」

「佳織」

佳織だ。

佳織が席に着く。

やっぱり、最後は……。

お店のドアが開く。

「久しぶりー! みんな!」

友里だ。

友里が席に着く。

「友里、遅いよ」

私が言った。

「ふふ、主役は遅れてやってくるの」

「さて、注文どうしようか」

美羽が言いながら、メニューを広げる。

「あ、みんながっつり食べちゃだめだよ」

友里が言った。

「どうしてですか?」

「それはね……」




1時間後。

少し喫茶店で話した後、私達4人は友里の提案で公園で鬼ごっこをしていた。

いい年した大人が、馬鹿みたいに騒ぎながら鬼ごっこ。

とても楽しかった。

私たちは芝生に倒れ込んで休憩する。

「この歳で鬼ごっことか、馬鹿なんじゃないの?」

美羽がハアハア息を切らしながら言った。

「でも、楽しかったよ」

私が言った。

全速力で走ると、童心に戻ったような感じになる。

汗で化粧が少し崩れてしまった。

でも、構わない。

全力でやるのが一番楽しいから。

「友里先輩、何で鬼ごっこなんですか?」

佳織が聞く。

「楽しいから!」

友里らしい。

それから、近況や他愛もない話を、延々とし続けた。

その時間が無性に愛おしくて、幸せだった。

「みんな、聞いてほしいことがあるの!」

友里が大きな声を出す。

「私、海外行くから」

「海外?」

みんなが聞き返す。

「うん、憲一君に付いてく」

野部君はプロのテニス選手になった。

今は試合のために世界各地を飛び回っていて、世界ランキングも順調に上がっているそうだ。

そして、友里と付き合っている。

「だから、みんなとしばらく会えないかも」

「それって、結婚するってこと?」

私が聞く。

「……うん」

しばらく、沈黙が流れた。

「おめでとう」

美羽がぽつりと言った。

「おめでとうございます」

佳織も言った。

「おめでとう、友里」

私は最後に言った。

幼馴染と結婚なんて、憧れるなあ。

「ありがとう、みんな。頻繁には会えないけど、それでも……友達でいてほしい」

「あたりまえだよ、友里。だって、私たちは――――」

本当の友達なんだよ。
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