長谷川君には屈しないっ!
「ん?」


私とは裏腹に余裕たっぷりの表情を浮かべている長谷川君。


そんな彼をよく見ると、片手には頬に感じだ冷たさの原因だったであろうペットボトルが握られていた。


そう、不思議に思っていると、長谷川君が再び口を開いた。


「ほら、これやるよ」


そう言って目の前に出されたペットボトル。


私はその行動の意図が分からず、目をパチクリさせる。


そんな私に対し、長谷川君は『なんで分かんないのこいつ』みたいな顔をしながら眉をひそめた。


…なんかムカつくんですけど!


「どういうことなの?」


「…いいからもらっとけ」


そう言いながら持っていたペットボトルを空中へと放つ長谷川君。


綺麗な放物線を描きながら私の方にやってきたそのペットボトル。


いつもとろい私でも、今回は早めに体が動いた。


長谷川君がペットボトルを投げた少し後、私の両手はペットボトルを捕獲するために構えた。


そして、ペットボトルが射程圏内に入ると、全力でその両腕を交差させた。


いける…!


「さすがだな、お前」


渾身の一撃を繰り出すかのように、完璧なタイミングで掴みに行った私であった。


…しかし、ペットボトルは私のレンジをわずかに超え、私のお腹へ軌道をぶらすことなく激突した。


「……痛い」


「相変わらずあんたって鈍臭すぎ」


私の元へ勢よくやってきたペットボトルを握りながらそう言うと、長谷川君は私の横に腰かけた。


たまには、いいとこあるじゃない。


「…ありがとう、これ」


「ん」


隣の彼に横目で視線を向けると、心地よく吹いてくる夕方の風を感じながら空を仰いでいた。


そんな彼を見ていたら、こんな気楽な日もありだなとか不覚にも思ってしまった。


…でも。


「忘れないでよね。今日のこれで貸しはちゃらよ!次のテストは絶対絶対勝つんだから!」
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