長谷川君には屈しないっ!
ハプニング
文化祭が1週間後と迫ったある朝。
事件は起きた。
朝、いつものように参考書を開きながら教室のドアの前までたどり着いた。
そして、いつものように空気のように中へ入ると、
クラスメイトがひとつに集まり、みんなが険しい表情を浮かべていた。
全視線が私に向き、待っていたとばかりに私を中へ誘導すると、事情を話してくれた。
その内容は、とある男子クラスメイトがこの時期には珍しいインフルエンザにかかり、出れなくなってしまったというものだった。
厄介なことに、そのクラスメイトのする予定だった『執事』は『メイド』の仮装とペアになっていた。
今回のうちのクラスの出し物は基本、男女のペアで動くことになっている。
3組の仮装ペアを学校の敷地内から見つけだし、クイズに答えてスタンプを集めていくという代物だ。
よって、片方がでれなくなってしまうと一大事なのである。
どうしたものか。
いきなり起きた緊急事態に、私も眉間にしわを寄せる。
「1週間前だよ、やばくない…?」
「たしかに…」
「……」
男子の生徒と女子の生徒の人数は半々。
そのため、全員が誰かしらとペアになって仮装することになる。
「誰か代わりに入ればいいんじゃねえの?」
1人のクラスメイトが沈まりかけた空気の中、口を開いた。
「シフトを見てお分りだとは思いますが、かなり強引に組んでしまったので、それは難しいかと」
「そうか…」
「みんな部活の出し物とか、ステージ出る子とかもいるもんね」
その言葉に、クラスの雰囲気が一段と重くなる。
「じゃあどうすんだよ、実行委員」
みんなの視線が私へと向けられる。
切羽詰まった空気が圧となって私を襲う。
「………っ」
無くすこともできない。
シフト変更もできない。
どうすればいい…!?
窮地に立たされ、ひやりとした汗が背中を伝ったその時だった。
「はよ」
ガラッと音を立てて開いた教室のドア。
無意識のうちに顔をそっちへ向ける。
すると、そこにはいつものごとく気だるそうにドアへもたれかかりながら眠そうにしている長谷川君の姿があった。
その姿を見た瞬間、私の脳内に一つの解決案が浮かび上がった。
私はすぐさまドア方へと駆け寄り、神にもすがるような眼差しで、叫んだ。
「代役…、確保!!!」