長谷川君には屈しないっ!
昼の休憩時間が終わり、俺は体育館に呼び出されていた。
そして、体育館の入り口にはでかでかと『☆ミスコングランプリ☆』の文字が。
その看板を見ただけで、出たくない気持ちが一層高まる。
もともと出る気もなかったコンテストに部活の奴らが勝手に応募し、出ることになってしまった。
「光輝絶対優勝しろよ!」
と、部活の先輩。
「俺らのバスケ部人生はお前にかかってんだからな!」
と、同じ学年の部員。
このコンテストは、まず最初に校内で応募・予選を行い、文化祭のステージで一人ひとりが自己紹介をして投票になる。
んで、今はその自己紹介の真っ最中ってわけ。
今ステージでは女子の候補者達が自己紹介している。
「それでは!今回の予選投票ぶっちぎりの1位!エントリーNo.5!佐々木瞳[ササキヒトミ]さん。どーぞ!!」
「みなさんこんにちは。佐々木瞳です。特技はピアノで、まさか選ばれるとは思ってなかったけど、嬉しいです」
そう言うと、品のありそうな笑顔をステージに向ける。
が、俺はその表情さえもうさんくさく見えていた。
昨日のシフトの時の言動と全く違う。
しかしその表情はどうやら、観客(男子生徒)を大いに虜にしたようだ。
「では、特技のピアノを演奏していただきたいと思います!どーぞ!」
ステージの横に設置されているグランドピアノに座っていた佐々木はその合図ととも音色を奏で始めた。
演奏が終わると、観客席は拍手喝采になり、佐々木も笑顔で立ち上がる。
「聞いてくれてありがとう。よかったら投票よろしくね」
一礼をしたあと、佐々木はステージ袖戻っていった。
完璧な立ち居振る舞いに、会場からは男子生徒の太い声も聞こえて来る。
そして、俺の隣にいるやつも例外ではない。
「ブラボー!!」
「李央うるさい」
「いや、だってさ!あんな綺麗な顔にピアノも弾けるってもうやばいだろ!」
興奮状態でステージに向かって叫んでいる李央の脳内を理解し難く思い、欠伸をひとつつく。
「そうか?あんなの上っ面だけだろ」