長谷川君には屈しないっ!

「文化祭の時校舎裏で」


そこまで言われてやっと思い出した。


文化祭で急いでた私が激突してしまった人だった。


「あの時は本当にごめんなさい…」


「いや、俺も前見てなかったんで。気にしないでください」


そう答える彼の表情がさっきまでの少し無機質な感じとは違い、穏やかになった。


なんていい子なのだろうか。


と、心の中でひとり感動していると、3年生の先輩がコートの中心に立ち、声をかける。


「もう少しで始めんぞー」


すると、他の部員たちもコート内に集まり始めた。


「おい李央。光輝はどうした」


「寝坊…です」


先輩と思しき人が藤木君に何やらものすごい圧で話かけている。


そんな状況に対し、いつも元気でキャンキャン吠えている犬のような藤木君が、もはや生まれたての子犬のように震えている。


「ふーじーきー」


「だってあいつ電話無視するんすよー!」


そんな長谷川君に翻弄されている姿に同情の思いを抱きながら私は藤木君を見ていた。


先輩達の凄まじい気配に、さすがの藤木君も半泣き状態。


わかります、わかりますよ藤木君…!


「練習始まるんで、失礼します」


「あ、はい。これ、ありがとうござました」


そして、そう言って彼は言ってしまった。
















放課後。


HRを終えた生徒たちがいっせいに教室を飛び出す。


私はというと、安定の図書室に向かっている最中だ。


部活が盛んなうちの学校では、図書室は割と穴場だったりする。


図書室につき、いつも気に入って座っている席につくと、早速勉強を始める。
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