長谷川君には屈しないっ!
バッグの中から教材を取り出していると、今日が返却日の本があるのを思い出した。


数冊の本を持ってカウンターに向かうと、そこには、


「こんにちは」


この間会ったバスケ部の彼がカウンターに立っていた。


ペコっと首を傾けながらそう言った彼は、読んでいた本を閉じて立ち上がる。


図書委員、だったんだ。


「返却お願いします」


そう言って本を渡すと、慣れた手つきで本を処理していく。


2冊目を終えて3冊目に取り掛かったとき、彼の手の動きが止まった。


…どうしたんだろう?


「…このシリーズ」


「…?」


「俺も読んだことあります」


そう言われて表紙を見てみると、私がここ最近見つけてハマっている作者の小説だった。


なかなか周りに好きな子がいなくて、少し寂しかったのだが、


彼が読んだことがあると聞いて、嬉しい気持ちが込み上げる。


「もともとこの作家の作品が好きで」


「…!そうだったのね!」


「内容は王道って感じですけど」


「確かに…」


「主人公が完璧すぎないのが、いいですよね」


「分かるわ!私も最近読み始めたんだけど、すごくいいわよね!」


そこまで言ったところではっとした。


思わず感情に乗せて喋ってしまった。


「ごめんなさい私、つい舞い上がっっちゃって…」


すると、とたんに恥ずかしく思えてきて、焦りはじめた。


「いや、なんと言うか、周りにこの本を知っている人があまりいなくて…」


「…」
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