長谷川君には屈しないっ!
そして、佐々木さんは私に二つのことを頼んだ。
『長谷川君との間を取り持つこと』
『このことを他言しないこと』
これで友達として佐々木さんの役に立てる。
そう信じて、
私はこの約束を守った。
数日後の夜。
「良いお湯だったね〜」
「そうですね」
合宿中は学校近くの銭湯を利用するため、学校ごとに時間を分けて私たちもやって来ていた。
昔ながらの良さも残しつつ、趣のあるお風呂に連日の疲れも安らぐようだった。
二人揃って女湯を出ると、男子部員たちはすでに勢揃いしていた。
「んじゃ帰るぞー」
学校までの距離は10分程度。
あたりはすっかり夜も深まっている。
「上地さん、上地さん」
先輩たちが歩き始めた時だった。
佐々木さんから、小声で呼び止められ振り向く。
「長谷川君と一緒に帰りたいの、協力してくれる?」
そう言って佐々木さんは顔の前で両手を合わせた。
「わかりました」
すぐに私は返事した。
長谷川君はちょうど私たちの前方にいて、隣には風間君がいた。
お話し中かな…?
さすがにその中に割入っていく勇気はなく、話が区切れたところで話しかけた。
「先輩?」
ふたりは同時に振り向いたが、私はなるべく視線を風間君に向けた。
「あの、ごめんね。風間君に聞きたいことがあって…。今、大丈夫かな?」
「はい。大丈夫ですよ」
風間君はそう言うと歩くスピード少し緩め、私に並ぶようにしてくれた。
それと同時に佐々木さんが長谷川君の隣に寄った。
「上地さん風間君に用があるみたいだから一緒帰ろ?」
しかしそう佐々木さんが声をかけた時、
私もふと気になって一瞬だけ視線を向けると、長谷川君もこっちを見ていた。
何か物言いたげな表情を浮かべた長谷川君に対し、私はすぐさま視線を逸らす。
そして少しの間を置いた後、
「どーぞ」
と長谷川君の声が聞こえた。