あの夏の日の花火
そんなアキの様子は可愛い。
可愛いし、懐いてくれていると思えば嬉しいけれど。

「アキ。アキ、お願い静かにして」

このマンションは古くて壁が薄い。
壁だけでなくて床も薄いのだ。
テレビも何もつけていないと上階の足音が響いてくるくらい。

「ねえ、お願いアキ」　　

焦ってアキに言い聞かせてみてもアキはそんな私に不安になったのか、ナァナァと鳴き続ける。
いつもは大人しいあんまり鳴かないコなのに。

大家さんは平日の昼はいつも家にいる。
ダンナさんの退職金でこのマンションを建ててここの賃料と年金で悠々自適に暮らしている穏やかなおばあさん。
ダンナさんは二年前に亡くなって、今はおばあさん一人。
仕事もしていないし面倒を見るダンナさんはいない。子供はもう大きくて別に住んでいる。

「マンションの前の花壇の世話くらいしかやることがないから、昼間はいつも家でゴロゴロテレビよ」と笑っていた顔が頭に浮かぶ。

穏やかな人のいいおばあさんだ。
猫が絡まなければ。
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