あの夏の日の花火
毎日仕事に疲れて帰って、出迎えてくれるアキの存在は私を確かに癒やしてくれたから。

「と、とにかくこの場をなんとかしなきゃ」

バタバタとリビングに備え付けのクローゼットを漁って、巾着袋のついたカゴバッグを取り出す。

「アキ、ちょっとだけ我慢してね」

そう言って開けた中身の入っていない巾着袋にアキの身体を入れて袋のヒモを緩く結んだ。

息ができるように指を突っ込んで袋の開け口を緩めておく。
そうしてもともと持つ予定だったバッグを左手に、アキの入ったカゴバッグを右の肩に掛けてローヒールの靴を突っ掛けるように履くと指先に鍵を引っ掛けて玄関のドアを開けた。

巾着袋ごしに指でアキを撫でて宥めながら大急ぎで階段を駆け下りてマンションを出る。
 
そのまま100メートルほども離れてからやっと立ち止まって息をついた。

「……とりあえず連れて出ちゃったけど」

これからどうしようかと思うと途方に暮れる。
このままどこかに放置するという選択肢だけは考えられないが。

「……ひとまず先送りしよう」
 
こんなところで突っ立っていて大家さんにバッタリとかなったらたまんないし。

ひとまず危機は脱したし、しばらくはこっそりうちで飼って、ちゃんと真剣に飼い主探しをしよう。

悪いクセなんだろうけど、問題の先送りは私の得意技だ。

私はアキを宥めながら最寄りのバス停へと歩を進めた。
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