あの夏の日の花火
バスを二つ乗り継ぎ、10分ほど見慣れた道を歩く。
手にはマンションから持っている二つのバッグの他に途中の花屋さんで購入した花束。

カゴバッグの中のアキはバスの中では落ち着きがなく宥めるのが大変だったけれど、今は疲れたのか身体を丸めて寝息を立てている。

目の前には長い石段。
これをあがりきった場所に今日の私の目的地がある。
五十段を越える石段の途中から下を見下ろすといくつか新しい高いマンションやビルの増えた町並みが見えた。

町並みのずっと奥に一際広い敷地を持つ建物が見える。
それはそこそこ有名な大学で私の母校でもある。
ただし地元の人に私の通っていた大学名を言ってみれば大抵の人は「ああ、あっちのショボい方」とか「ああ、そこそこの方ね」とか言われてしまう。 

どうしてかというと私が今いる高台。その裏手側には小中高大一貫の超有名大学があるから。  
あ、違った。
幼等部もある。

偏差値バリ高のお金持ちのご子息たちが通う私からしてみれば異世界。

そう、もともと異世界の人だったんだよね。
--彼は。


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