あの夏の日の花火
気づいたその場でその人にお別れを告げた。

大人のお付き合い。
もともとお互い一時だけの関係。

だから。

「……そう、残念だな」  

の一言だけで後腐れなく終わった関係。

だけどその人を彼に重ねていたことに気づいた私は、人を本気でなくても好きになるのをやめた。

重ねないことも、比べないことも私にはできないんだと気づいたから。


サクサクと砂利道を歩いて、鉄柵の内側に作られた水道でバケツに水を溜める。
その中に柄杓を突っ込んで砂利の敷き詰められた園内を奥へと歩く。  

霊園という場所は、とても静かだ。

--人が最後に眠る場所。

アキが、智明が眠っている場所。


私が初めてオツキアイした男が眠っている場所。


サクサクという音が止まった。
私の足が止まったから。

「……どうして?」

アキのお墓の前。
まだ真新しい花が供えられたお墓の前に。

彼がいた。

会わないように。
会うことがないように1日ずらしているのに。
命日ではなくその次の日に。

これまでは必ずアキがいなくなったその日に訪れていたことを知っている。

なのに何故?





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