あの夏の日の花火
ぐらりと視界が揺れた気がした。
「久しぶり」
そう言って笑う彼。
私は一歩後ずさりする。
どうしてそんな風に笑えるの?
アキのお墓の前で。
アキの目の前で。
「……なに、してる、の?」
「なにって見ての通り。墓参り」
「なんで今日?」
「昨日は仕事でどうしても抜けられなかったから」
ああ、そうか。
そうだよね。
私なんかよりずっと忙しい人だから。
「ところで」
「なに?」
長い指が私の肩に掛けたカゴバッグを差し示す。
「なんか、ゴソゴソしてるけど?」
私はハッとなってカゴバッグの巾着袋を開いた。
目を覚ましてゴソゴソ袋に爪を立てていた猫のアキが隙間から「ナオン!」と不服そうな声を出す。
ひょっこり顔を出したアキの頭を撫でて、私は「ごめんね、アキ。窮屈だったね」と声をかけた。
アキは縞模様の頭をぷるぷると振って、開いた巾着袋の隙間から短い前足を出して一生懸命抜け出そうとする。
「アキ?」
何か言いたげな声音に、なによ、と思う。
「悪い?……なんとなく顔見てたらアキって名前が出てきちゃったのよ。そしたら反応するから、そのまま」
ってなんで私言い訳めいたこと。
「……別に、いいんじゃないか」
彼はそう言って、私が並ぶスペースを作るように横にずれた。
「墓参り、するんだろ」
本音を言うなら一旦退却したい。
でもなんだかそれも悔しいような気がして。
私はやたらと大股で彼に近づいていくと横に並んだ。