あの夏の日の花火
花瓶はすでに花で埋まっていたので、仕方なく花束はそのままそっと横たえて供える。

できるだけ横にいる存在を頭の隅に押しやって手を合わせていた。 
その手に視線を感じた。

「……なに?」
「指輪、してないなと思って」

私は眉を寄せた。
いきなりなにを、と思う。

指輪?
指輪ってアレのことよね。
――ファッションリングじゃなくて、結婚指輪。

しているわけがない。
結婚してないんだから。

まさかいい年をしてまだ独り身なのかとでもいいたいのだろうか。

「……してないわよ。そっちもでしょ?」

指輪も。
結婚も。

どちらもしていないという意味を込めて顔を見ずに答えた。

あぁ、でも私。
自分で言って気づいた。

無意識にしっかり指輪の有無を確認している。

相変わらずの長い指。
キレイな爪。

その左の薬指は空っぽ。
指輪はない。
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