あの夏の日の花火
私とは世界の違う人。

きっとこっそり猫を飼ってマンションを追い出されるかも、なんて悩みはない。
そもそも昔住んでいたところだってオーナーは彼自身。
親のものですらなく、自分のもの。

大学在学中でさえ不動産だの投資だのイベントプロデュースだのですでに億単位の個人資産を持っていた彼。

リビングだけで私の部屋の倍以上あった高級マンションを思い出す。

ベーシックでシンプルなグレーと黒を基調としたリビング。

寝転んでも余裕で丈の余るソファー。
壁一面のガラス窓。
10階建ての最上階。マンションのベランダからは、夏になると遮るもののない角度で打ち上げ花火が見えた。



打ち上げ花火の音をBGMにキスをした。

大好きな彼氏の親友。
親友の彼女。

お互いに背徳感に苛まれながら、でも一度触れてしまった唇は止まらなくて。

何度もキスをして、舌を絡ませあって。


「ナオン」

アキの何かを訴えるような声に、私は思い出の中から現実へと帰る。
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