あの夏の日の花火
膝の上に乗せたカゴバッグの巾着袋から顔と前足を出したアキは、なにやらナアナア鳴きながら一緒に持った財布やスマートフォンの入ったバッグを爪でカリカリしている。

「アキ?」

何か気にしてる?
そう思ってよく見ると、微かにバッグが振動しているのに気づいた。

あ、スマホ。
バイブにしたスマホが振動しているらしい。



「……ぇ?」

バッグからブルブル振動し続けるスマホを取り出して、画面をタップしながらその場を少し離れた。

そうして出た電話の向こうは……。

「火事……ですか?」

ご冗談を、と言いたい。
けれど相手は今のマンションに入った時に世話になった管理会社の不動産屋で。

わざわざ入居時に提出した書類を探して冗談を言ったりはしないだろう。

『四階の角部屋で火が出まして。天音さんの部屋自体は無事なんですが煙でスプリンクラーが作動しましてね』

焼けたのは四階の一部屋が全焼とそのお隣の一部。
だけれどその煙でマンション全体のスプリンクラーが作動したとか。

『一階の大家さん宅も天音さんのお隣も部屋中被害を受けているようで、出来るだけ早く天音さんもご自宅の状況を確認して頂きたいのですが……』

言いにくそうに告げる男性の声に茫然とする。

「あ、わかり、ました。すぐ、帰ります」

どうにかそれだけ答えて通話を切った。
着信履歴を見ると30分ほど前から五件の同じ番号の履歴が並んでいた。
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