あの夏の日の花火
通話を切った後も、私はしばらくぼんやりと履歴を眺めていた。

衝撃的すぎて、頭が回らないし身体も動かない。

だって、火事って。
――火事?

嘘でしょう?


火事を見たことがないわけじゃない。
子供の頃に近所が火事になって大騒ぎしたことを覚えている。幸いにも犠牲者は出なかったけれど。
結構大規模なもので夕方のニュースでもちょっとだけやってて、友達の家がちらっとテレビに映っていたと翌日の学校でそのコが何故か時の人になった。


アキを連れてきていて良かった。
部屋にいたら煙とかで危なかったかもしれない。

ああ、でもどうしよう。
火事だなんて。

火事は見たことはあるし、毎日のように消防車のサイレンはどこかしかで聞こえるものだ。
でも誰も自分の家が火事になるなんて考えたりしない。


ぐるぐる、ぐるぐる。
意味があるのかないのか。
色んな思考が頭の中を渦巻いては消えていく。

なんとなく。
自分がパニックになりかけているのはわかっているのだけれど、わかってもどうしようもない。

「……か、」

帰らなきゃ、と顔を上げた。
拍子に手の中からスルリとスマホが滑り落ちて足元に転がる。

「あ……」

拾おうと伸ばした手が震えてうまく拾えなかった。
指先が触れて手から離れていくそれを横から長い指がひょいと拾い上げた。

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