あの夏の日の花火
「どうした?」

訝しそうに問いかけてくる声に泣きそうになる。
でも泣きたくはなくて、ギュッとまぶたをきつく閉じて耐えた。

「私の……マンション。上の部屋が、火事で――」
「それで、被害は?どの程度なんだ?」
「……部屋は無事だって。焼け、てはないの。でもスプリンクラーが」

そうスプリンクラーが作動して、私の部屋。
私の部屋が。

「……バスで来たんだろう?送っていく」

言って、彼の手が私の腕を掴む。
いつの間にか私のバッグも二つとも持って、反対の手で私の手首を引いて、歩き出した。


アキの眠る霊園には入口が二つある。
私が入ったのは裏口で、表側には駐車場があって、坂道の車道に繋がっている。

彼――敏也は私の手を引いたまま駐車場に来ると、停めてあった黒い高級車のドアを開けた。
ふらふらと手を引かれるままの私を助手席に座らせるとシートベルトを填める。
膝の上にはアキが顔を出したカゴバッグ。
もう一つのバッグは後部座席に。

そうして自身は運転席に。

「住所、教えて」
「住所?」
「そう。住所」

住所?教えて、いいのかな?

私はぼんやりと隣に座るイケメンを見上げる。
戸惑う私に敏也は「早く」と急かしてきて。

いまだ頭の回らない私は自分の住所を口にした。

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