あの夏の日の花火
敏也の高級車で送ってもらった私のマンションの部屋は、悲惨としか言いようのない惨状だった。

部屋のスプリンクラーが作動したこともだけれど、それ以前に消防車からの放水による被害もあったのだろう。
上階からの水漏れでスプリンクラーのついていない寝室やトイレ、クローゼットの中まで水浸しで床には所々水溜まりが出来ている状態。

もはや絶句し過ぎて声も出ない。
カサカサの唇から出たのは「……ははっ」という渇いた笑いだった。

こんなの元に戻るのにいったいどれだけの時間がかかるのだろうか。
というか、元通りになるのだろうか?
床も壁もびしょびしょで、家電だって多分全滅ではないかと思う。
漏電防止の為にマンション全体の通電が止められているそうで、確かめることもできないけれど。

救いは一部のタンスにしまわれていた洋服が無事だったことと、冷蔵庫の中に入れてあった通帳の類が無事だったことか。

私は実家で母親がしていたのを真似て貴重品の類を食品袋と缶に入れて冷蔵庫の奥にしまっていた。
母親は防犯の知恵だと言っていたけれど、実家もこのマンションでも幸い泥棒に入られたことはないので効果のほどはわからない。
ただ水漏れにはしっかり効果があったようだ。
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