あの夏の日の花火
そんなお約束を実行できるほど、私は落ち着きを取り戻してきていた。

認めるのはシャクだけれど、敏也がいてくれたおかげ。
私一人だったらまだびしょ濡れの部屋で茫然と座り込んでいたんじゃないかと思う。

食事を終えて、二人でコーヒーをお代わりすると。
改まった表情で敏也が脇に置いていた鞄からクリアケースに入った書類を取り出した。

「とりあえず。まずは詩織の部屋だけど」
「うん」
「家財は入居時に加入した火災保険が適用されるから、保険金で300万が支払われる。書類は預かってきてるから後でしっかり確認しておいてくれ。それと所在を明らかにしておいてほしいとのことだったから、俺のマンションの住所を伝えてあるから」
「うん」

深く考えずに頷いてから、「うん?」と首を傾げた。
今なんだかすごくおかしなことを聞いた気がするけど。
だけどそんな私をなんでもない顔でスルーして敏也が話続けるから、口を挟むヒマがない。

「建物に関しては大家の方で修繕することになるけど。4階の一部がかなりの損害を受けていることと、元々建物の老朽化もあったこともあって、このさい解体して建て替えを検討しているらしい。現在の入居者については建て替え後に優先的に家賃は据え置きで入居できるようにするとのことではあるが、そうなると早くても二月、おそらくは三月ほどは時間がかかる」

そんな、と私は絶望的な気分になった。
ではその間、私はどうすれば良いのかと。
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