祈らないで、願わないで。
第四話 一筋の光 (side:霧島寧々)
第四話 一筋の光 (side:霧島寧々)
「寧々ちゃーん、そろそろ起きなきゃ遅刻するわよ〜?」
階段の下からおばさんの声がする
「はーい、いま行きます!」
身支度を整えて階段を降りると、リビングにいつものように新聞を広げてコーヒーを飲むおじさんと、洗面所から髪をセットしてきた礼央くんがやってきた
「おはようございます」
「あぁ寧々ちゃん、おはよう」
「おは〜」
優しく微笑むおじさんと、大あくびをしながら席につく礼央くん
「寧々ちゃんも今日から大学生ね!
距離は少し遠いけど..校舎はとっても綺麗だったし、良いところに入れて良かったわぁ」
おばさんは嬉しそうにそう言って、席についた私の前に朝ご飯を持ってくる
「礼央じゃ頼りないかもしれないけど..まぁ、困ったらとっ捕まえて教えてもらってね」
おばさんが礼央くんの方を見て笑う
「なーに言ってんだよ。俺に任せろ」
「頼んだぞ、礼央」
おじさんにもそう言われて、まんざらでも無さそうに嬉しそうに笑う礼央くん
..礼央くんは、面倒見がとても良い。
私が大学に受かったのも、根気強く礼央くんが勉強を教えてくれたからだった
『たとえお前に記憶が無くたって、また始めからやり直せば良いんだよ!』
記憶を無くしてからはしばらく誰とも話が出来ず...
塞ぎこんでいた私を引っ張ってくれたのは、礼央くんだった
『何回俺たちを忘れたって、
何回学んできたことを忘れたって...
お前はお前なんだ。
ほかの誰でもない、一人のお前なんだよ』
そう言って、ベッドの上でうずくまっていた私の頭を撫でてくれたっけ..
『...お前がまた、お前としてやり直したいって..そう思うんなら。
いつでも俺のところに来い。
一から一緒に、また始めようぜ』
..
あの時の礼央くんが、もし居なかったら。
今頃私は..まだベッドの上にいたのかもしれない
「..ふふっ」
礼央くんの眠そうな顔を見て、くすくす笑いだす私を礼央くんは怪訝そうな顔で見る
「..なんだよ」
「..ううん。
...今の私があるのは、礼央くんのおかげなんだなぁって」
私の言葉に、おばさんとおじさんは微笑む
「..礼央はきっと、沢山の人を救えるだろうな」
「もちろん。..あとはしっかり勉強をして、素敵なお医者さんになれたら完璧よ」
..元々頭が良い礼央くんは、同じ大学の医学部にトップで入学
それからも順位を落とすことなく、トップをキープし続けているからすごい
..でも、私は知っている
礼央くんはすごい努力家で、いつも人の見ていないところで努力を重ね、頑張っていたことを。
「..別に?
そんな大したことしてねーよ」
照れくさそうにそっぽを向いて、頭を掻く礼央くん
「まーったく、礼央は素直じゃないんだから〜」
おばさんはからかうように礼央くんに言葉をかけると、洗濯物を干しにベランダへと向かった
「..もういいって。行くぞ、寧々」
照れ隠しのようにさっさと鞄を持って行こうとする礼央くん
「あ、まっ..い、行ってきます!」
礼央くんに置いて行かれないようにと、私も足早に家を出た
...ザワザワ..
最寄り駅まで礼央くんと降りると、何処からともなく後方から聞き慣れた声がした
「ねーねーーーー!!!!」
とびっきりの笑顔で抱きついて来たのは、仲良しの秋宮都(あきみや みやこ)。
記憶を無くしてから、ずっと一緒にいてくれた大事な友達だ
「あ、礼央先輩もいる!おはようございます!」
礼央くんを私の隣に捉えると、笑顔でぺこりとお辞儀をする都
「うん、おはよ」
礼央くんも合わせて優しく笑う
「まさか、進学した大学に礼央先輩もいたなんて!
...私たち、やっぱりそういう運命なんですかね?!」
都がとても嬉しそうにそう言う
「...どうだろうな」
くすり、と礼央くんは小さく笑った。
聞いた話によると、礼央くんと都は小学校から中学、高校、更には大学まで同じだったらしい
「先輩は医学部なんですよね?!
三年生だから..え、今年入れてもあと四年?!!
はーーーー...私には無理です..」
都が指折り数えてはオーバーなリアクションをしているのを見て、礼央くんは笑う
「..俺も、無理かもなぁ」
都はそんな様子を見て、「ですね〜」と笑ってそれに合わせていたが..
私から見た礼央くんは
無理して笑っているようにしか、見えなかった
..
電車に乗る前、礼央くんはまた放課後にという事で、一旦分かれて電車に乗った
ガタンゴトン..
しばらく電車に揺られて、終点に着く
「...ん?」
ふと、騒がしい声のする方へと視線を移す
「ーーー....!」
寧々の脳裏に、白い靄がかかったような何かがフラッシュバックする
『..ね、...く!!』
白い靄で、よく見えなかったけれど...
..一瞬だけ、見たことのない男の子が脳裏をよぎった
「..ね、寧々?」
「..っ、!!!」
気がつくと、心配そうに私を覗き込む都がいた
「大丈夫?顔色悪いけど...」
「だ、大丈夫!!..降りよう?」
私の前から離れていく目の前の三人の男の子が...何故か、気になっていた
...
「ええと..礼央くんのところは...」
入学式が終わり、諸々の行事が一段落ついた私は礼央くんがいる医学部に向かっていた
「..おばさんってば、礼央くんのとお弁当間違えるだなんて...」
おばさんも共働きをしているから急いでいたのだろう
私と礼央くんのお弁当を反対に入れてしまっていて、私が届けに行くことになってしまった
「..にしても...この校舎、広すぎでしょ..」
完全に迷子になってしまっていた私は角に差し掛かり、ふと賑やかな声が聞こえてきたので場所を聞こうと、走り出したーー
瞬間、
ーーーードンッッッッ!!!!!
「いっ..!!」
「きゃあぁ!!!!」
寧々は、誰かとぶつかってしまった
「..おい、だいじょー」
ぶつかったのは、どうやら男の子だったらしい
「いたた...」
ぶつかった頭を抑え、目に薄っすら涙を浮かべる寧々
「...っ、?!」
ぶつかった男の子は、何かを言いかけて止まる
..?
「..っ、!!」
再び何かを言いかけて..また止まってしまった
そして、
「....寧々」
どうしてか、彼の口からは私の名前が溢れていた
「....へ?」
きょとん、とした寧々が不思議そうに顔を上げ、彼を見上げる
まだ痛む頭を抑え、先に立ち上がった彼をを見上げて思考を巡らせる
なん...なんで....
なんでこの人、私の名前知ってるの..?
「おま...覚えてないのかよ」
彼は肩を落として、その場に座り込む
..覚えて、ない?
「..お前、寧々だよな?」
私の顔を改めて覗き込み..
そして、優しく微笑んで。
「..おかえり、寧々」
私に、そう告げた。
「....」
..“おかえり”?
彼は一体、誰と勘違いしているんだろう
..しばらく目の前の彼ををじっと見つめていた寧々はその言葉を聞き、静かに俯く
「..寧々?」
彼の問いかけに、寧々は反応しない
「..どうしたんだよ、本当に俺のこと、忘れたのか?」
からかうように笑い、寧々の頰に手を伸ばす
が、
ーーパシッ....!!!!
彼の手は寧々に触れることなく払いのけられ..小さな痛みが、遅れてやってきた
「....あなた、誰」
震える声で、寧々は言う
「私はきっと..貴方の知ってる“寧々”じゃない」
何なの、この人...!!
唇をギュッと噛み締めて、寧々は彼に言い放つ
「私は“霧島寧々”。この春こっちに引っ越してきたばかりなの」
それに、と寧々は付け加える
「私...三年より昔の記憶が、無いの」
そう笑う寧々の笑顔は..
今にも消えてしまいそうだった。
「寧々ちゃーん、そろそろ起きなきゃ遅刻するわよ〜?」
階段の下からおばさんの声がする
「はーい、いま行きます!」
身支度を整えて階段を降りると、リビングにいつものように新聞を広げてコーヒーを飲むおじさんと、洗面所から髪をセットしてきた礼央くんがやってきた
「おはようございます」
「あぁ寧々ちゃん、おはよう」
「おは〜」
優しく微笑むおじさんと、大あくびをしながら席につく礼央くん
「寧々ちゃんも今日から大学生ね!
距離は少し遠いけど..校舎はとっても綺麗だったし、良いところに入れて良かったわぁ」
おばさんは嬉しそうにそう言って、席についた私の前に朝ご飯を持ってくる
「礼央じゃ頼りないかもしれないけど..まぁ、困ったらとっ捕まえて教えてもらってね」
おばさんが礼央くんの方を見て笑う
「なーに言ってんだよ。俺に任せろ」
「頼んだぞ、礼央」
おじさんにもそう言われて、まんざらでも無さそうに嬉しそうに笑う礼央くん
..礼央くんは、面倒見がとても良い。
私が大学に受かったのも、根気強く礼央くんが勉強を教えてくれたからだった
『たとえお前に記憶が無くたって、また始めからやり直せば良いんだよ!』
記憶を無くしてからはしばらく誰とも話が出来ず...
塞ぎこんでいた私を引っ張ってくれたのは、礼央くんだった
『何回俺たちを忘れたって、
何回学んできたことを忘れたって...
お前はお前なんだ。
ほかの誰でもない、一人のお前なんだよ』
そう言って、ベッドの上でうずくまっていた私の頭を撫でてくれたっけ..
『...お前がまた、お前としてやり直したいって..そう思うんなら。
いつでも俺のところに来い。
一から一緒に、また始めようぜ』
..
あの時の礼央くんが、もし居なかったら。
今頃私は..まだベッドの上にいたのかもしれない
「..ふふっ」
礼央くんの眠そうな顔を見て、くすくす笑いだす私を礼央くんは怪訝そうな顔で見る
「..なんだよ」
「..ううん。
...今の私があるのは、礼央くんのおかげなんだなぁって」
私の言葉に、おばさんとおじさんは微笑む
「..礼央はきっと、沢山の人を救えるだろうな」
「もちろん。..あとはしっかり勉強をして、素敵なお医者さんになれたら完璧よ」
..元々頭が良い礼央くんは、同じ大学の医学部にトップで入学
それからも順位を落とすことなく、トップをキープし続けているからすごい
..でも、私は知っている
礼央くんはすごい努力家で、いつも人の見ていないところで努力を重ね、頑張っていたことを。
「..別に?
そんな大したことしてねーよ」
照れくさそうにそっぽを向いて、頭を掻く礼央くん
「まーったく、礼央は素直じゃないんだから〜」
おばさんはからかうように礼央くんに言葉をかけると、洗濯物を干しにベランダへと向かった
「..もういいって。行くぞ、寧々」
照れ隠しのようにさっさと鞄を持って行こうとする礼央くん
「あ、まっ..い、行ってきます!」
礼央くんに置いて行かれないようにと、私も足早に家を出た
...ザワザワ..
最寄り駅まで礼央くんと降りると、何処からともなく後方から聞き慣れた声がした
「ねーねーーーー!!!!」
とびっきりの笑顔で抱きついて来たのは、仲良しの秋宮都(あきみや みやこ)。
記憶を無くしてから、ずっと一緒にいてくれた大事な友達だ
「あ、礼央先輩もいる!おはようございます!」
礼央くんを私の隣に捉えると、笑顔でぺこりとお辞儀をする都
「うん、おはよ」
礼央くんも合わせて優しく笑う
「まさか、進学した大学に礼央先輩もいたなんて!
...私たち、やっぱりそういう運命なんですかね?!」
都がとても嬉しそうにそう言う
「...どうだろうな」
くすり、と礼央くんは小さく笑った。
聞いた話によると、礼央くんと都は小学校から中学、高校、更には大学まで同じだったらしい
「先輩は医学部なんですよね?!
三年生だから..え、今年入れてもあと四年?!!
はーーーー...私には無理です..」
都が指折り数えてはオーバーなリアクションをしているのを見て、礼央くんは笑う
「..俺も、無理かもなぁ」
都はそんな様子を見て、「ですね〜」と笑ってそれに合わせていたが..
私から見た礼央くんは
無理して笑っているようにしか、見えなかった
..
電車に乗る前、礼央くんはまた放課後にという事で、一旦分かれて電車に乗った
ガタンゴトン..
しばらく電車に揺られて、終点に着く
「...ん?」
ふと、騒がしい声のする方へと視線を移す
「ーーー....!」
寧々の脳裏に、白い靄がかかったような何かがフラッシュバックする
『..ね、...く!!』
白い靄で、よく見えなかったけれど...
..一瞬だけ、見たことのない男の子が脳裏をよぎった
「..ね、寧々?」
「..っ、!!!」
気がつくと、心配そうに私を覗き込む都がいた
「大丈夫?顔色悪いけど...」
「だ、大丈夫!!..降りよう?」
私の前から離れていく目の前の三人の男の子が...何故か、気になっていた
...
「ええと..礼央くんのところは...」
入学式が終わり、諸々の行事が一段落ついた私は礼央くんがいる医学部に向かっていた
「..おばさんってば、礼央くんのとお弁当間違えるだなんて...」
おばさんも共働きをしているから急いでいたのだろう
私と礼央くんのお弁当を反対に入れてしまっていて、私が届けに行くことになってしまった
「..にしても...この校舎、広すぎでしょ..」
完全に迷子になってしまっていた私は角に差し掛かり、ふと賑やかな声が聞こえてきたので場所を聞こうと、走り出したーー
瞬間、
ーーーードンッッッッ!!!!!
「いっ..!!」
「きゃあぁ!!!!」
寧々は、誰かとぶつかってしまった
「..おい、だいじょー」
ぶつかったのは、どうやら男の子だったらしい
「いたた...」
ぶつかった頭を抑え、目に薄っすら涙を浮かべる寧々
「...っ、?!」
ぶつかった男の子は、何かを言いかけて止まる
..?
「..っ、!!」
再び何かを言いかけて..また止まってしまった
そして、
「....寧々」
どうしてか、彼の口からは私の名前が溢れていた
「....へ?」
きょとん、とした寧々が不思議そうに顔を上げ、彼を見上げる
まだ痛む頭を抑え、先に立ち上がった彼をを見上げて思考を巡らせる
なん...なんで....
なんでこの人、私の名前知ってるの..?
「おま...覚えてないのかよ」
彼は肩を落として、その場に座り込む
..覚えて、ない?
「..お前、寧々だよな?」
私の顔を改めて覗き込み..
そして、優しく微笑んで。
「..おかえり、寧々」
私に、そう告げた。
「....」
..“おかえり”?
彼は一体、誰と勘違いしているんだろう
..しばらく目の前の彼ををじっと見つめていた寧々はその言葉を聞き、静かに俯く
「..寧々?」
彼の問いかけに、寧々は反応しない
「..どうしたんだよ、本当に俺のこと、忘れたのか?」
からかうように笑い、寧々の頰に手を伸ばす
が、
ーーパシッ....!!!!
彼の手は寧々に触れることなく払いのけられ..小さな痛みが、遅れてやってきた
「....あなた、誰」
震える声で、寧々は言う
「私はきっと..貴方の知ってる“寧々”じゃない」
何なの、この人...!!
唇をギュッと噛み締めて、寧々は彼に言い放つ
「私は“霧島寧々”。この春こっちに引っ越してきたばかりなの」
それに、と寧々は付け加える
「私...三年より昔の記憶が、無いの」
そう笑う寧々の笑顔は..
今にも消えてしまいそうだった。